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R-18部屋(文章)
SWEETEST(バレンタインレクアズ)
自分が不器用だという自覚はあった。
軍人という職業柄、お菓子作りなどという事に無縁だったのも、今にして思えば仕方の無い事だろう。

―――だが、実際ここまで酷いとは。

「…はぁ…」

盛大な溜息をついて、元帝国軍海戦隊第6部隊隊長はがっくりと肩を落とした。






きっかけは些細な事だった。

ある日、たまたまラトリクスを訪れたところ、たまたまアルディラが留守で、クノンしかいなくて。
たまたま彼女が読んでいた本が、例の『恋する乙女は云々』シリーズの小説で。その内容が、「女性が意中の男性にチョコレートを送る記念日がある」というものだったのだ。

そして、クノンの爆弾発言。
「アズリア様も、レックス様にチョコレートを差し上げるのですか?」…と。


アズリアはこの時程、クノンにこの本を読むように勧めた海賊一家の航海士を恨みがましく思った事は無いだろう。
すぐさま否定したのだが、逆にクノンに「ではアズリア様は、レックス様の事を想ってはいらっしゃらないのですね」と問われ、言葉に詰まってしまった。

普通の感情ならまだしも、「恋愛」というものをあと一歩というところで理解出来ていない彼女にとっては、そういう思考に辿り着くのも仕方の無い事だろう。


さて、どうしたものか。アズリアはしばらく考えていたが、逆にこれは良い機会かもしれない、と思い直した。

いつも強がってばかりで素直になれない自分。本当は大好きなのに、誰よりも大切な人なのに。
年に一度くらいは、こんな日があっても良いかもしれない。

「……なあ……。あいつは、レックスは、喜んでくれるだろうか……」
「はい、とても喜んで下さると思いますよ」

不安か、それとも単に照れなのか小さな声で呟いたアズリアに、クノンはにっこりと笑顔で返答したのだった。



そんな訳でアズリアは、キッチンで一人こうしてチョコレートと格闘していた。

時間は既に深夜を回っている。同じ屋根の下で共に暮らすレックスやイスラは、とうに眠りについている事だろう。
いや、もしかしたらレックスなら起きているかも知れないが。

「喜んで……くれると、いいな……」

彼女自身は気付いていなかったが、無意識に呟いた表情はとても生き生きとしている。戦場で女隊長として部下を率いていた頃とはまた違う、もうひとつの魅力がそこにはあった。


アズリアが今作ろうとしていたのはチョコレートケーキである。お菓子作りの経験など皆無に等しいのだから無難な物にすればいい話なのだが、それでは彼女のプライドが許さなかった。
とびきりの物を作ってレックスを驚かせたい、という気持ちもある。

……それが今現在、目の前の惨状に繋がっているのだが……


「……どうして、上手くいかないんだ」

スポンジケーキはきちんと分量を計り、時間通りに焼いているはずなのに、何故かクッキーの様な固さに仕上がる。
予め湯煎しておいたチョコレートもいつの間にかすっかり冷めきっていて、とてもデコレーションに使えそうには無かった。

「……悔しい……」

不器用な己が恨めしい。
彼女の大きな瞳に涙が滲んだ、その時だった。



「……アズリア?」

今、この状況を最も見られたくないひとが、そこにいた。



「どうしたんだ、こんな時間に……何か作ってたの?」
「レックス、お前こそどうして」

本人を目前にするとどうしても固くなってしまう口調に内心舌打ちをし、アズリアはせめて泣き顔は見られない様にと俯いた。

「キッチンから物音がするから様子を見に……って、アズリア、火傷してるじゃないか!」

彼女の指先の小さな水膨れを目ざとく見付けたレックスは、アズリアが止めるのも聞かずその手を取ると、指先をぱくりと喰え込む。

彼の優しさと指先の感覚に、アズリアは頭がぼんやりとしてきた。
勿論それは、この部屋にたちこめた甘ったるい匂いのせいでもあるのだろうけど。


「―――で、結局、何してたんだ?怒らないから言ってごらん」

一通り彼女の指先を舐めた(レックス曰く“消毒”らしい)後、キッチンの中央に位置するテーブルの上にアズリアを座らせて、彼は子供に話しかける様に問いかけた。こうしていると、二人の目線が丁度交わる。

ここまで来たら仕方が無いと、アズリアはぽつりぽつりと話し始めた。
クノンが読んでいた小説のこと、その中に出てきた記念日のこと、自分もやろうと思ってお菓子作りに挑戦したこと。

「……それなのに、上手くいかないんだ……。折角、お前に渡そうと思ってた、のに……っ」

悔しくて、悲しくて、恨めしくて。
色んな気持ちが混ざりあって、いつしかアズリアはぽろぽろと涙をこぼしていた。溢れ出したそれはぽたりとこぼれて、彼女が身に付けていたエプロンに染みを作る。

「……アズリア……」


小さくしゃくり上げる彼女がとても儚く見えて、愛しくて。レックスはそっとアズリアを抱きしめていた。

「……俺の為……に、頑張ってくれたんだよな……ありがとう、アズリア」

彼の心からのお礼にも、まだ彼女の表情は晴れない。「上手く出来ない」と再度呟くばかりである。

「俺はさ、アズリアがそういう事をしようとしてくれた、その気持ちだけで十分だよ。凄く嬉しい。
…嬉しすぎて、俺には勿体ない位だ」

ちょっと照れくさいな、と笑いながら話すレックスに、アズリアは今度こそ溢れる涙を押さえられなかった。



このひとで、良かった。
このひとを好きになって、良かった。


自分から彼の首に腕を回して、ぎゅっと抱きつく。それに答えるように、背中を撫でてくれる大きな手が愛しかった。

「……レックス…すき…大好き……っ」
「ん、俺も……好きだよ、アズリア」

言葉にしたらその分だけ想いが伝わるのか、それは分からなかったけど。素直になれないでいる普段よりはずっと良い。




しばらくそうして抱き合っていたが、不意にレックスは調理台に置かれていたボウルに目を留め、アズリアに尋ねた。

「これが、そのチョコレート?」
「……ああ、そうだ。すっかり冷めてしまったがな」


先程一旦溶かした時に違う種類のクリームを混ぜ込んでおいたそれは、冷えてしまった今も固まる事無くとろとろとしていた。
それを見たレックスは、悪戯を思いついた子供の様に満面の笑みとなる。

「……いい事、思いついた」


アズリアがその言葉の意味を計りかねているうちに、レックスはボウルの中身を指でひとすくいし、彼女の頬と唇にそれを塗り付けた。

「こら、レックス、一体何を……」

アズリアが反論しかけた瞬間、彼はチョコレートを塗り付けた彼女の頬をぺろりと舐めていた。

「……っ!?」

びくりと震えるアズリアに構わず、今度は唇を重ねる。チョコレートを舐め取る様に軽く触れた後、強く吸い付き、深く舌を絡めた。


「……は、はぁっ、…あ……」

唇を解放された途端、酸素を求める様に荒い呼吸をつくアズリアをレックスは愛おしそうに見つめると、自分より一回り小さい彼女の手を取り、ゆっくりテーブルの上へと押し倒していった。




「上手くお菓子を作れないって言うんだったら、君自身がチョコレートになれば良い。
……そうだろう?」

その意味するところは、つまり。

「……こ、ここで…する、のか……?」

レックスが言った言葉の内容か、それともこの体勢が恥ずかしいのか。アズリアは顔を真っ赤に染めて逆に問い返した。


「イスラならもう寝ちゃってるから、大丈夫だよ」

そう言いながら彼はアズリアの頬や首すじに執拗にキスを落とし、痕を残していく。
そっと胸元をはだけて下着をずらし、柔らかな乳房を手のひらで包み込んだ。

「そ、そういう問題じゃ……はぁ、……ん…」


―――分かっている。
レックスの優しい愛撫に溺れながら、彼女はぼんやりと考えた。

いつもこうして結局、自分は彼に堕とされてしまうのだ。けど、それは決して嫌ではなくて。
身体が熱くて、触れられている所から溶けていきそうだった。そう、まるでチョコレートの様に……


「……んっ、ふぅ……っ、はぁん……」

甘い吐息を洩らすアズリアにレックスは満足そうに微笑むと、先程のチョコレートを再度ひとすくいし、彼女の―――ピンと張り詰めた胸の突起に塗り付けた。
そして、それを口に含む。

「……ん……アズリアの身体、凄く甘い……」
「……っ、ちが……それはチョコレートが……っ、やぁ…あ……」

彼女の抗議も、徐々に艶めいた声音に変化していく。
レックスは口内のそれを舌で転がし、軽く甘噛みしてみせた。




「……はあ、ぁ……」
「アズリア、大分息が上がってるね…気持ちいい?」

一方的に愛撫を続けるレックスに、アズリアは既に息も絶えだえ、潤んだ瞳でこくりと頷いた。その仕草は非常に可愛らしくて、彼の理性をことごとく壊していく。

レックスはそこでようやく胸への愛撫を止め、彼女の頬に軽く口付けた。そして手をスカートの中へと伸ばしていく。
下着を脱がし、既に十分過ぎる程に潤みきっている中心をそっと指でなぞった。

「……ひ、あぁ……!」
「……すご……もう、こんなになってる……」

彼は感心した様に呟くと、愛液が絡み付いた指をそのままアズリアの胎内へと沈めていった。
そしてとめどなく蜜が溢れ出すそこを、わざと音をたてる様に掻き回す。


「……やぁ、あ……ひ、あぅ……れ、レックスぅ…!」

自らの身体から響く濡れた音が恥ずかしくて。しかしそれとは正反対で、快楽の波へと確実に溺れていく。
どうしようもなくなって、アズリアは堪らずに彼へと抱きついていた。

その間にもレックスは、彼女のそこをぐちゅぐちゅと掻き回し続ける。
指を増やしていく度にアズリアの嬌声は高くなり、溢れ出した愛液は彼の手をぐっしょりと濡らしていた。

「……ん、あっ…レックス…わ、私……」
「……ん、分かった」

恍惚とした表情で訴えてくるアズリアにレックスは頷くと、限界まで張り詰めた己を取り出した。
そして彼女の熟れきった蕾にそっと充てがい、ゆっくりと身体を進めていく。



「……あっ、はぁ……んゃあ……っ」

自らの胎内を掻き回す熱に翻弄され、アズリアは甘い声を上げ続ける。
レックスはぎりぎりまで引き抜いては最奥へと一気に突き上げ、それを何度も何度も繰り返した。

「……やぁ、あッ!んあっ、レックス、……すき…っ、やあぁッ」
「……俺、も…好きだよ……アズリア…」

思考が追いつかない程の快楽に、彼女は愛しい人の名を呼び必死に縋りつく。同時に彼もきつく抱き返してくれる、その事実が嬉しかった。


「……ひあッ、ん、あぁッ…!」

普段の毅然とした態度とは正反対、彼の腕中で我を忘れて喘ぎ続けるアズリアに、彼女に対する愛おしさと独占欲はより一層増していく。
レックスはその華奢な身体をしっかりと抱きしめ、何度も激しく腰を突き上げた。

「…やぁ……んッ、気持ち、イイの…っ!だめ、も、イッちゃ……ふぁ、あああああッ!」
「……っ、アズリアッ…!」

甲高い声と共に細い身体はびくびくと震え、限界に達した事を訴える。レックスは最後に一度、大きく突き上げると一気に引き抜き、己の欲望を解き放った。

勢いよく放たれたそれは弧を描く様に降り注ぎ、アズリアの下腹部や太腿を白く汚していく。

「……はあ…っ」

そして、二人同時に息をついた。絶頂の余韻はそのままに、深く口付けを交わす。


「……アズリア、チョコレート味」
「……ばか」

レックスのおどけた口調に、上気した表情のままでアズリアは頬を膨らました。

「美味しかったよ。ありがとう」
「……礼は、二倍返しだからな。覚えておけ」

頑張ってチョコレートを用意しようとした事も、普段は温厚な彼に散々鳴かされてしまった事も。
何もかもが恥ずかしくて、アズリアはわざとぶっきらぼうに答えた。

そんな彼女にレックスは「了解」と、生真面目な表情で敬礼の仕草を取る。
それがなんだか可笑しくて、二人して暫くの間くすくすと笑い合っていた。





「それはそうと、派手に汚しちゃったな……ごめん」
「……気にするな。風呂に入れば良いだけの事だ」

先程、自身の熱をかけてしまった事を気に病んでいるのだろう。
すまなそうに詫びるレックスに、アズリアは彼に気使わせない様に返事をした……つもりだった。


「……じゃあ、一緒に入ろうか?」
「……ちょ、ちょっと待て、何故そうなる!!」
「お互いに、身体洗いっこしようよ。楽しいよ」

そんな事は恥ずかしいだけだ、とアズリアは反論しようとしたが時すでに遅し。
レックスは彼女を抱き上げると、意気揚々と鼻歌混じりでバスルームへ歩き始めた。






ちなみにこの後、バスルームにて再度レックスに挿入され、アズリアはまたも彼の腕中で散々喘ぐ羽目になってしまうのだが―――それはまた、別のお話。





END.

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あきゅろす。
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