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マルコ×連載ヒロイン 夢の中 side Marco
ねぇ、冥刻。
前にマルコを子供にしちゃったことがあったじゃない?
あれって、私の事も子供にする事ってできるの?
我が手を貸せばできるだろう。
ちっ、出て来んなよ。崩玉。
そっか。それじゃあ、一日だけ私を子供にしてくれないかな?
お前の記憶はどうする?
子供の時まで戻しちゃっていいよ。
それならば明日一日、お前を子供に戻してやる。楽しめ。
――――――――――――――
朝。
昨夜もたっぷりと可愛がり、気を失った菜真絵の汚れをシャワーで流してやってから、一緒にベッドへ潜った。
今朝も愛らしい寝顔を見ようと、俺の意識が浮上してくる。
だがしかし、浮上する意識の中で違和感を感じた。
いつも腕に乗ってる心地よい重さがいつもより軽い。また、抱きしめ足を絡めているはずの菜真絵の足が無かった。
いつもなら徐々に覚醒する意識を、無理やり起こし目を開けた。
「よいっ!?」
いつもの位置で寝ていたのは菜真絵ではなく、素っ裸の4,5歳くらいの子供。
(どういうことだよい!?菜真絵はどこに行ったんだい?)
室内を見渡し、見聞色で辺りの気配を探ってみても菜真絵の気配はなく、強いて言うなら目の前で寝ている子供から菜真絵と似た気配がした。
子供の顔をよく見てみれば、菜真絵と同じ黒髪に、愛らしい唇、瞼は閉じていて瞳は見られないが、どことなく菜真絵を子供にした様な……子供っ!?
その子供を包んでいたシーツを捲り、黒子の位置を確認する。
(…………菜真絵だよい……。)
何がどうしてこうなったのか、目の前で寝ている子供は、確かに菜真絵で。
菜真絵を起こさない様に気をつけながら、急いで起きて着替え、菜真絵の部屋のクローゼットから今の菜真絵が着れそうなものを探した。
そして部屋に戻り、起こさない様に慎重にそれを菜真絵に着せた。
「……参ったよい。」
俺は一人、頭を抱えて溜息をつく。
菜真絵に刀の力は効かないんじゃなかったのかよい?
昨日は別に変なものは食べてない筈だし、怪しいものを手にしたりもしていない筈だ。
だとしたら、考えられるのは菜真絵の刀の力で…。
俺も前に迂闊に刀に触れ、子供にされた事があったが、子供になった時、今の記憶は無く、子供だった時の記憶はうっすらと残っている感じではっきりしない。
ただ、菜真絵がとても優しく温かかった記憶だけが残っている。
そうこうしている内に菜真絵が身じろぎ、目を覚ました。
「起きたかい?」
「…ん…おかあさん…?」
目を擦っていた菜真絵が俺と目が合い固まる。
俺はベッドに腰かけていた身体を反転し、菜真絵と正面から向かい合うように座った。
「……おにいちゃん、だぁれ?」
こてっと首を傾げるしぐさは今の菜真絵と変わらず可愛い。
「俺はマルコだよい。菜真絵は今、夢の世界に来てるんだよい。」
「まうこ?…ゆめ?」
「そうだよい。夢の中だよい。だから、母親も一護もいないよい。その代わり、菜真絵にはオヤジとたくさんの兄達がいるんだよい。」
「まう…まりゅ……マルコはおにいちゃん?」
“る”が上手に言えないのか、何度も言い直す菜真絵。
(菜真絵、可愛過ぎるよい!“おにいちゃん”という言葉にこんな破壊力があったとはねい。)
「ああ、俺も菜真絵の兄だよい。一番仲良しの兄で、菜真絵はここで俺と一緒に寝たり本読んだりしてるんだよい。」
苦肉の策で、この世界を菜真絵の夢と言うことにした。菜真絵のいた世界とこの世界とでは、何もかもが違い過ぎる。もしそのまま説明しても、泣かれるのが落ちだろう。
「ほん!菜真絵、ほんすき!」
こんな小さな時から既に本の虫だったのだろうか?“本”という言葉に反応し、一気にテンションが上がる菜真絵。
「まずはオヤジへ朝の挨拶と朝飯を食べに行くよい?本は部屋に戻って来てから読んでやるよい。」
「うん!ありがとう、まりゅ…マルコ!」
菜真絵を抱き上げて、顔を洗わせたり歯を磨かせた後、オヤジの部屋で事情を説明した。
小さくなった菜真絵を見たオヤジは目じりが垂れ下がって好々爺の顔になり、絶対に他の海賊や海軍には見せられない表情になった。
(早く孫の姿も見せてやりたいねい。)
オヤジの姿を見ても全く泣かず、ニコニコと笑って自己紹介し、ぺこりと頭を下げた菜真絵は、事情を話すために集められた隊長達に囲まれても、オヤジの膝の上でニコニコと笑ったまま、いい子にしていた。
食堂へ行けば、さすがに大勢の“兄”達に驚いたらしく、俺にしがみついて暫くは離れなかった。
それでもちょっかいを出したいエース、サッチ、ハルタにかかれば、すぐに打ち解け、菜真絵のぷくっとしたほっぺたを軽くつついてあやしていたサッチは、
「しゃっち、やァ!きらい!」
と言われ、見事にリーゼントが萎れていた。
「お前ら、いい加減に散れよい!お前らがいると菜真絵が気にして飯が進まねぇんだよいっ!」
クルー達も菜真絵を見ようと食堂に集まっていて、菜真絵の一挙一動に声を上げていた。
菜真絵はそれが気になって飯が進まず、眉をハの字にし、今にも泣きそうだった。
俺が怒鳴れば、蜘蛛の子を散らしたようにクルー達は食堂から出て行き、残ったのは俺とサッチ、エース、数人の隊長達。
ハルタは訓練があったんだと残念そうに食堂を出て行った。
菜真絵はサッチが作ったオムライスを美味しいと言って食べていたが、残されている黄色い粒と緑の粒が気になる。
「菜真絵、コーンとグリンピースは嫌いなのかい?」
ライスの中に混ぜてあるその二つを器用に避けながら食べる菜真絵。
「……………。」
困った様な顔をして俺の顔を見上げて来る。
「ははっ!そっか。菜真絵ちゃんもグリンピース嫌いだったんだな!マルコと一緒じゃねぇか。」
萎れていたリーゼントがいつの間にか復活していた。
(しぶといよい。)
「俺はもう食えるよい。」
皿の上と俺の顔を見比べていた菜真絵は徐にスプーンでそれらを掬い、口に入れた。
「菜真絵!?無理しなくていいよい!」
「まうこが食べるなら菜真絵も食べる…。」
殆ど噛まずに飲み込んでいる菜真絵。これでは腹にも悪い。
「サッチてめぇ、菜真絵が食えねぇもん入れるんじゃねぇよい!」
「俺かよっ!?菜真絵ちゃんはいつも好き嫌いなく俺の飯は美味いって食ってくれてるから、菜真絵ちゃんの嫌いなものなんて知らねぇよ。」
確かに菜真絵はこっちに来てから一度も「これは食べられない」と言った事が無い。それは、海賊が飯を好き嫌いしてはいけないという事を知ってた所為で、本当は嫌いなものも無理して食ってたんじゃないだろうか?
「菜真絵はコーンとグリンピース以外に嫌いなものはあるかい?」
「コーンもグリンピースもスープならすき。……ぶつぶつきらい。」
「つぶつぶな。ってことは、ポタージュなら飲めるってことだな?」
サッチが確認すれば、こくんと頷く菜真絵。
「あと、赤飯きらい。ぶつぶつあんこも嫌……。」
「「セキハン?」」
「おかあさんが、うれしい事があった日は食べるんだって言ってた。」
「赤飯ってのはもち米に小豆を混ぜて炊く飯のことだ。小豆の色が米に移って赤くなるから赤飯。懐かしいねぇ。」
俺とサッチが首を傾げていたら、イゾウが説明して懐かしそうに目を細めている。
「菜真絵ちゃんは豆の食感が苦手ってことか?」
「そうみたいだねい。菜真絵、他に嫌いなものあるかい?」
「…………。」
じぃ〜っと俺の顔…頭を見つめて来る菜真絵に嫌な予感がする。
「…………生のぱいなっぷる…。」
「「「「「ぶっ!わははははははははっ!!」」」」」
食後のコーヒーや茶を飲んでいた隊長達が一斉に噴き出す。
菜真絵はその笑い声に一瞬ビクゥ!と肩を揺らした。
「生って…生…ぶっ!!ククク……あははははっ!」
「マルコ嫌われたな〜!あはははは!」
「うるせぇよい!誰がパイナップルだい!」
いくら怒っても笑いが止まらねぇこいつら。
丁度近くに居たサッチとエースの足を蹴飛ばす。
「…しゅわしゅわきらい…。」
食堂中が笑い声でうるさい中、ぼそっと申し訳なさそうにつぶやいた菜真絵。
どうやら生のパイナップルのアクが苦手のようだった。
(食い過ぎたんじゃねぇのかよい?)
「ククッ…安心しな、菜真絵ちゃん。モビーの飯にパイナップルは出ねぇから。」
菜真絵が飯を食い終わったのを見て、菜真絵を抱き上げ、いつまで経っても笑いが収まらない食堂をさっさと後にした。
廊下に出れば、後ろから追いかけてきたエース。
「菜真絵!オレと甲板で遊ぼうぜ!」
「かんぱん?」
「ああ、言ってなかったねい。ここは船の上なんだよい。海見に行くかい?」
「海!…でも、マルコと本……。」
困った顔をして俺とエースの顔を見比べる菜真絵。
海へは行きたいが、本も読みたいと言ったところか。
「それじゃあ、本を持って甲板へ行くかねい。」
「マルコだいすきー!」
きゃー!っと嬉しそうにはしゃいで俺に抱きついて来る菜真絵。
俺は本を取りに行くために、菜真絵をエースに預けた。
「エース、絶対目を離すんじゃねぇよい!」
俺とステファンの話はサッチに聞いた。
ステファンが居なかったら俺はどうなってたやら。
「おう!じゃあ、菜真絵行こうぜ!」
エースは菜真絵を肩車して甲板へ向かった。
俺は急いで部屋に戻り、『嘘つきノーランド』と『桃太郎』、『シンデレラ』を持って部屋を出た。
『桃太郎』や『シンデレラ』は俺が小さくなった時に、菜真絵がハルタと絵本にした話だ。俺が大人に戻ってから、向こうの世界にある有名な童話だと、菜真絵が懐かしそうに話していた。
甲板へ出るとエースと犬達に埋もれてはしゃいでいる菜真絵の姿があった。
他のクルーは食堂に居た時とは違って、上手く空気感を出しながら微笑ましそうに眺めている。
「菜真絵!」
「あ、マルコ!」
俺が声をかければ、嬉しそうにぶんぶんと手を振る菜真絵が可愛らしい。
傍へ行き隣に腰をおろせば、よじよじと俺の膝へ上ってきて、ちょこんと俺に背中を預けて座った。
(大人の時もこれくらい積極的だと良いんだけどねい。)
「エース、ちゃんと菜真絵から目を離さなかったかい?」
「おう!もう仲良しだよな〜?菜真絵?」
ニシシッっとエースが菜真絵に笑いかけると、菜真絵もニコッと笑った様だ。
「エース大好き!」
「よいっ!?」
子供の姿でも、菜真絵の口から俺以外への好意を聞くのは、気分のいいものではない。
「エース、何したんだよい?」
「何もしてねーよっ!それに今は子供だぞ!大好きの言葉に深い意味は無ぇって!!」
焦ったように言い訳するエース。
「マルコ、本!」
俺がエースを問い詰めようとしていれば、下から抗議の声が聞こえた。早く読めということか。
「分かったよい。菜真絵は『うそつきノーランド』を知ってるかい?」
「ううん。しらない。」
「じゃあ、それから読むかねい。」
菜真絵の前に絵本を広げると、後ろから覗き込むようにして俺は絵本を読み始めた。
エースは隣で寝転がり、犬達と俺の話に耳を傾けている。
サッチが昼飯だと呼びに来るまで、ゆったりとした時間が過ぎて行った。
――――――――――
午後のおやつの時間。
サッチが菜真絵に特別にフルーツや生クリームでデコレーションしたプリンを出してやれば、サッチも「大好き!」と言われていた。
(リーゼント潰すよい。)
「一日こうしてるけどさ、菜真絵って母親の事言わないね?普通、これくらいの子供だと母親が恋しくなるもんじゃないの?」
ハルタが珍しいと言わんばかりの顔で疑問を呈する。
「おかあさん…?おかあさんはお仕事がんばってていそがしいから。菜真絵、いい子にしてるもん。」
「へぇ〜、菜真絵ちゃんは偉いな〜!菜真絵ちゃんの母ちゃんってどんな人だ?」
「びじんで、優しくて、つよくて、かっこいいべんごしさんだよ!」
「美人さんか〜!俺も会ってみてぇな!」
確かに向こうの菜真絵の家に飾ってあった写真で見た菜真絵の母親は、キリッっとした綺麗な女性で、菜真絵の可愛らしさとはまた違った雰囲気だった。
(ああ、でも、菜真絵が死神化した時は結構似てるねい。)
「ベンゴシってなんだ?」
エースが眉間にしわを寄せ頭を捻る。
「弁護士、菜真絵の世界で、裁判に掛けられる者の無実を訴えたりする奴のことだよい。冤罪を作らないために居るんだと菜真絵が前に言ってたよい。」
「ふ〜ん。こっちには無ぇ仕事だな。」
「菜真絵は母親が居なくて寂しくねぇのかい?」
今度はイゾウが菜真絵に訊く。今日一日で、意外とイゾウが子供をあやすのが上手い事が分かった。
「さみしいけど、さみしくないよ!いつもはいちごが一緒だし、まさきママのごはんおいしいもん。いっしんパパもおもしろいんだよ!それに、今はお兄ちゃんたちみんながいてくれてうれしい!だから、さみしくないよ!」
菜真絵が子供の頃、母親が忙しい時は隣の家に預けられていたと言っていたのを思い出した。
こちらの世界では家族や母親が居ない子供はザラにいるが、菜真絵のいた世界ではとても寂しかっただろう。
菜真絵の言葉にウルッと来ているジョズとラクヨウの姿が見えた。
一人の子供がいるだけで、今日一日、天下の白ひげがこれでいいのかと思えるくらいに船全体が優しい空気に包まれた。
風呂は俺が入れてもよかったのだが、いつもの菜真絵とどこか勝手が違くて、ナース達に入れて貰った。
一緒にベッドへ潜れば、気恥ずかしさや照れがないせいだろう、いつもより素直にべったりと俺にくっついて来る菜真絵。
「菜真絵、おやすみよい。」
「マルコおやすみなさい…。」
目を閉じればすぐに可愛い寝息が聞こえてきた。
菜真絵がいつ元に戻れるか分からないが、菜真絵が笑顔で居てくれさえすれば俺は構わない。
「もう寂しい思いはさせないよい。ずっと、菜真絵の傍にはオヤジやクルー、そして俺がいるよい。」
次の日の朝、大人に戻った菜真絵が本当に戻ったか確かめようと、服をひん剥いたら怒られたよい…。
「朝からなんて、マルコ盛り過ぎ!」
「違うよい!誤解だよい!」
「マルコしつこい!」
「菜真絵が子供になって…「嘘つくマルコは嫌い!」…………よい。」
菜真絵の機嫌が直ってから聞いた話では、菜真絵は一昨日の夜からの記憶が全部抜けているらしかった。
(…………嫌いは堪えるよい…。)
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夕月様 優菜様
リクエストありがとうございました!
ヒロインが小さくなってしまった話というリクエストでしたが、いかがでしたでしょうか?
書いているうちに落とし所が見えなくなってしまい、ぐだぐだになってしまってすみません。
楽しんでいただけたら幸いです。
瑛冬
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