Baby Phoenix Another Story
The Day 4
モビーディック号4日目。
午前中に私とマルちゃんが暮らしていた島にモビーディック号が着いた。
キィさんに挨拶をしてからマルコとエースとサッチを伴ってマルちゃんと私の家へ向かうと、家の中は強盗でも入ったかのように滅茶苦茶に荒らされていた。
「これ、エースとサッチの仕業なの!?」
「だって、子供の頃のマルコがこの島に居るから連れて来いって言われてたからよ。」
「情報通りにこの家に来たらマルコの姿は無ぇし、何処かへでも攫われたのかと思って手掛かりをと、な。」
「それで冷蔵庫の中まで荒らす必要があるの?ドア開けっぱなしだし。」
「おうっ!中にあったハムとか美味かったぞ!」
「っ!!」
「痛゛っ!!?」
足を踏み入れる場もない室内を玄関のドア前から見渡し、原因のサッチとエースに尋ねると、サッチは苦笑いしながら答え、エースは何も悪びれる事も無く答えたので、死神化して鞘を抜かない斬魄刀で思いっきりお尻を叩き飛ばしてあげた。
「散らかし過ぎだよい。お前ら二人が責任もって片付けろい。」
呆れた声で2人に拳骨を落とし、命令したマルコの隣をマルちゃんがすり抜け、テテテッと室内へ入って行ったと思ったら、部屋の隅で小さく座りこんでしまった。
サッチとエースは取り敢えずキッチンに放り込まれ、食べ散らかされた食材と割られた食器の片付けをマルコに命じられ、マルコはそこら中に散乱している服や本などを拾い上げている。
私もクローゼットの中をまずはどうにかしようとしたけれど、その前に俯いてしまったままでいるマルちゃんが気になって傍に寄ってみた。
「マルちゃん…どうしたの?」
「うぅ…ぐすっ…菜真絵よい…。」
振り向いたマルちゃんの目からは大粒の涙がぼろぼろと零れていて、手には破れて折り目が付いてしまっているマルちゃんが大事にしていたスケッチブックが抱えられていた。
「おえかきちょう…ビリビリよい…。」
私に抱きついてびえ〜〜〜〜ん!と泣き出したマルちゃんに他の3人も気付いて手を止める。
マルちゃんのスケッチブックにはこの島で見て、触れて、遊んだ、景色や動物、友達の絵がたくさん描かれていて、マルちゃんはまるで日記の様に毎日描いては私に見せながら「ちょうちょよい!ピクニックでいたよい!」「とりさんよい!コケー!よい!」「とっしーよい!きょうともだちなったよい!」「キィよい!おむらいすすきよい!」と楽しそうに話してくれていたものだった。
「サッチ、エース。お前ら本当にやり過ぎだよい。これじゃあ、やってる事がそこいらのチンピラと変わらねぇよい。オヤジの名が泣くよい。」
「……すまねぇ。」
「悪かった……。」
マルコが静かに諭す様に叱ると、サッチもエースも本当にすまなそうに私に向かって頭を下げる。
「マルちゃん、折れちゃった所は他の本でぎゅーってしておけば直るから大丈夫だよ?」
「ぐすっ…なおる…よい?」
「直る直る。直らなかったらサッチにアイロン掛けて貰おう。破けちゃったのは、全部集めてパズルしようか?マルちゃん、自分でどんな絵を描いたか覚えてるかな〜?」
「おぼえてるよい…。きいろいの、ひよこさんよい…。っ…くろしろの…うしさんよい…。」
ポロポロと涙を流し、声を詰まらせながらも私の問いに答えてくれるマルちゃんの優しさと言うか可愛さと言うか、健気さに愛しさが込み上げて来てぎゅ〜っと抱きしめた。
本来ならばこんなに可愛いマルちゃんを泣かせた人間は許せないし、半殺し以上に痛めつけたい気持にもなるけれど、やったのがマルちゃんの家族で、マルちゃんの手がかりを探すという理由ならば仕方がないと思える。
きっと2人だってマルちゃんを心配し、居なくて焦ったからこそこんな暴挙に出たのだろうと思うから。
「マルちゃん、エースとサッチがごめんね?って。許してあげられる?どうする?」
「………………ゆるすよい…。」
小さな声でそれだけ言ってまた私の胸へ顔を埋めてしまったマルちゃん。
その声がなんとか聞きとれていたらしい2人はホッとした顔で顔を見合わせていた。
――――――――――――――――が。
その後、折られ散乱したクレヨンや尻尾が千切れてしまっていたクジラのぬいぐるみ、角が欠けた積木を見たマルちゃんは激昂して不死鳥になり、2人に突進して行っていた。
「イテッ!俺が悪かったって!嘴で突くなよ…!」
「イデデデデ!!脚の鉤爪刺さってる〜〜!!ギャー!リーゼント毟るな〜〜〜!!!」
「ぎゃっはははは!羽くすぐってぇ!イデッ!髪啄むな〜!ハ〜ゲ〜る〜!!」
「アレ、止めなくていいの?」
「自業自得だろい?」
「…そうだね。今日くらいはマルちゃんが室内で飛ぶの許そうかな。」
「菜真絵は寛大だよい。」
その日の夜、キィさんのお店で開かれた白ひげ海賊団の宴の時、マルちゃんがキィさんに泣きついてサッチとエースがキィさんに拳骨と長いお説教を貰っていた。
「マルちゃん、泣いていたんじゃなかったの?」
「あいつがみずでぬらすといいよいっておしえてくれたよい。きらいだけどいいやつよい。」
「マルコ……。」
(キィさんに泣きついたのはマルコの入れ知恵だったのか、マルちゃんが策士なのか……。マルちゃん可愛いからどっちでもいいか。)
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