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Baby Phoenix Another Story
The Day 2
モビーディック号2日目。



お昼ご飯の時には既にマルちゃん用の椅子が用意されていて、それを見たマルちゃんは気に入らなそうに口を尖らせていたけれど、肘掛部分ににわとりとひよこの飾り彫りが施されていたのを見ると、椅子の上でピョンピョンと跳ねて喜んでいた



(にわとりでいいのかな…マルちゃん……。)



午後、タダでモビーディックにお世話になるにもいかないので、サッチにお願いして夕食のお手伝いをさせて貰っていた。


サッチが今夜は海賊カレーを作ってくれると言ってくれたので、凄く楽しみにしながら頼まれたリンゴのすりおろし作業を食堂のテーブルでしていたら、腰辺りにドンッ!と軽い衝撃を受けた。


「マルちゃん?」

「……ょぃ……。」


私にぎゅ〜っとしがみついたまま小さな声で返事をするマルちゃん。

確か昼食後にエースと一緒に甲板に出て、他のクルーさん達にも「コマル!」「コマル!」と楽しそうに構って貰ってたはずだ。


「どうしたの〜?遊んでて疲れちゃった?」

「ちがうよい…。」


どこか拗ねている様な声に、構われ過ぎて疲れたのかと思ったけれど違うらしい。


「マ〜ルちゃん?」

「……マルはマルよい…。」

「うん?」

「マルはマルよい!コマルちがうよい!」


マルちゃんの手が離れたので振り返って顔を覗いてみると、目に涙をいっぱい溜めていて、もう少しでそれが零れそうになっていた。


「マルちゃん…。」

「マルはマルよい!なのにみんなコマルよぶよい!」


マルちゃんの主張はよく分かるけれど、クルーもマルコとマルちゃんを分けるためにそう呼んでいるのだと思うので、何て言ってあげたらいいのか言葉に詰まる。
きっとマルちゃんに事情を説明しても納得してくれそうにはない。


「う〜ん…。マルちゃんはマルちゃんってみんなちゃんと分かってて、マルちゃんのこと大好きだと思うよ?それでも、この船にはもう一人“マルコ”が居るでしょ?だから、みんないじわるでマルちゃんを“コマル”って呼んでる訳じゃなくて、呼び分けるためにそう呼んでるだけだよ?」

「…でも…マルはマルよい……。」

「…う〜ん……。」


やっぱり納得して貰えず困ったと思いながら、傍に置いておいた濡れたタオルで手を拭き、マルちゃんを膝に乗せた。


「うん、マルちゃんはマルちゃんだよね〜。ねぇ、マルちゃん。“マルちゃん”って呼ぶの私だけじゃ嫌?」

「菜真絵だけ…よい?」

「うん。私だけマルちゃんの“特別”。」

「とくべつ…よい?」


我ながらずるい丸め込み方だとは思ったけれど、マルちゃんの主張通りマルコもマルちゃんも“マルコ”と呼ぶようにしたらややこしくなるし、第一、クルーの人達は隊長の名前を呼び捨てにし難いだろう。隊長本人に向けた言葉ではなくても。


「そう、特別。」

「菜真絵、何してるんだよい?」

「あ……。マルコ。」


もう少しでマルちゃんが納得しそうだった所にマルコが現れ、テーブルの上を見てまだ半分ゴロゴロと残っているリンゴを見ながら訝しげに片眉を上げた。


「ごめんね。まだ仕事終わって無くて…。」

「仕事?菜真絵はそんなことしなくていいよい。それよりそのちびは菜真絵の邪魔してたのかい?」

「マル、ちびじゃないよい!」

「あはは……。実は―――……。」


今までのマルちゃんとのやり取りとマルちゃんの訴えをマルコに話すと、最初はフムフムと聞いてくれていたマルコの顔が段々と呆れた顔になり、話し終った時には腕を組んでマルちゃんを睥睨していた。


「バカだよい。」

「っ!?マル、おまえきらいよい!もういいよいっ!」


キッ!っとマルちゃんはマルコの事を睨み上げた後、私の膝からぴょん!と飛び下りで何処かへ走って行ってしまった。


「マルちゃん…!」




「オヤジよ〜〜い……!」


廊下の方から聞こえて来たマルちゃんの声に、白ひげさんの所へ行ったのだとホッとする。


「マルコ…、バカって…。そう言ってるの自分だからね?」


「だから歯痒いし、こっ恥ずかしいんだよい。」


大人気ないと呆れながらマルコを見上げたら、顔は憮然としていたけれど、耳がほんのりと赤くなっていた。
それが大人なのに少し可愛く思えてしまって、こっそりと口角が上がりそうになるのを噛み殺した。


「……菜真絵、目が笑ってるよい。」

「えっ!?ご、ごめんごめん。……ふふっ。」

「菜真絵よい…!」

「だって、マルコとはまだ会ったばかりだけれど、もっと大人然としてると思ってたから、なんかマルちゃんに振り回されてるのか可愛くて…。」

「嬉しくねぇよい。可愛いのは俺じゃなくて菜真絵だろい?」

「え?」

「俺は菜真絵の事をよく“知って”るよい。菜真絵は昔も今も可愛いよい。」

「えぇ!?あ、ありがと……?」

「赤くなりながら首傾げてんじゃねぇよい。ククッ……。」



――――――――――――



「オヤジよ〜い!マルはマルよい!」

「グラララ!元気だなァ?マルコ。」

「マル、げんきよい!…………う?…ち、ちがうよい!マルはマルなのよい!」

「グラララ!」



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