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らくあちゃんから(文)
◆感染メルト




「…んでこっち見てんだよ」

「べっつにー」


コーヒー煎れるのに邪魔なんだよ、なんて言えやしない。なんでだってば、と変な口調で返され「おまえが見てると集中できない」などと答えれば、腹を立てるにちがいない。
理由を話せればいいのだが、サスケ自身、この胸の高鳴りが何なのか、よくわかっていなかった。とにもかくにも、あらぬ誤解で怒らせるつもりは毛頭ない。コーヒーミルを手前に黙っている。

この喫茶店で働き始め早三ヶ月。オーナーのカカシに「そろそろ一人で煎れられるようになろっか」と言われた時は嬉しかった。
表立ってそうとは言わなかったし、正社員のサイににやつかれるのも釈だ。しかしオレとしてはアルバイトとしてでもようやく認められてきたか、というふうで。
しかしコーヒーというものは中々に扱いが難しい。コーヒーミルで豆を挽くという作業が、慣れればそれまでらしいがそこにたどり着くまでに時間と努力はどのくらい必要なのだろう。コーヒーメーカーで液体を沸かすのはわりと手慣れてきたのだが。


「なあ、それって試食できんの?」

「…試飲て言うんだよ。つーか店に出すやつじゃねえし、ムリ」


ふーん、とナルトはオレが出してやった水を飲み干しテーブルに突っ伏した。
ああ、カカシはイルカって野郎がおそらく好きだし(サイ曰く相当惚れこんでるらしいがオレにはよくわからない)自分はといえばそいつの後ろに付いていた生意気そうなこのうすらトンカチ野郎のことが気になって何だかイライラしている。


「いいじゃない飲ませてあげれば。もったいない」

「…サイ、」


コーヒー豆の品だしが終わったらしくカウンターに戻ってきたサイが、胡散臭さ満開の笑みで口に出した。
それを聞いたナルトはきゃきゃとはしゃぎ出し「サイってばさすがだってばよ」などと笑っている。サイの何を知っていてさすがだと言っているのか。三ヶ月一緒にいるオレにすらよくわからないのに。
むっとしていたら肩を叩かれ、振り向いたら已然笑顔のままのヤツが「よかったね」と囁いた。ムカつく。一体何が良いものか。


「んー、ナルト君にはちょっと苦いかもね」

「ええー。オレってば甘いのが好きなんだけど」

「彼、挽き始めたばかりだしね。削りが甘い」

「うっせ、しょーがねえだろ」


確かにオフホワイトのカップから匂い浮かぶそれは、カカシがいつも煎れるそれより渋く苦いものをまとっている。きれいな半透明な液体でもなく、微かにある挽き残りがうっすらと見えて、オレは自分の腕のなさに落胆する。


「んー、たしかにー、カカシ先生が持ってくるのと匂いがちがうなー」


わかってんだよそんなの。サイに言われりゃ噛みつくがこいつには何故か踏みとどまれる。心の内に留められる。
つーかカカシが先生って。こいつにとって年上は総じて先生扱いになるのだろうか。


「いーから早く飲んじまえ。どうせ苦いだろうけどな」

「んーじゃあ、いっただっきまー」

「あ、おまえシュガーとみ」

「す、…」


切那、う、と低い音が発せられたかと思えば、うげえと顔が歪みげほげほと咳き込み始めるあいつ。
サイが苦笑しながら空のグラスに水をつぎ、満たされたところでぐぐぐと飲み干している。だんと再び空になったグラスを置くナルトは、息切れしているのと舌の上の苦味により相当苦しそうだ。


「おま、サスケぇ!ちょーにがい!」

「たりめえだバーカ、ブラック飲めないだろうがおまえ」

「せっかくサスケ君が気づいてくれてたのにねえ」


はっとしてサイを見れば、鼻唄なんぞ口ずさみ始めて何やらご機嫌だ。シュガーとミルクを手渡している。そのまま見ていたらこっちの視線に気づいたらしく、近づいてきて耳打ちされた。
彼のこと気遣ってあげられるようになってるね。
は、なんて言ったおまえ。
訳がわからず聞き返そうとすれば、向かい側から歓喜の声。


「サスケぇサスケぇ!」

「…んだよ」


でけえ声で名前呼んでんじゃねえ。ナルトはサイに渡されたシュガーとミルクをこれでもかというほど黒い液体に入れている。もはやコーヒー牛乳みたいな色合いだ。
オレは相当怪訝そうな顔をしているにちがいないが、ナルトはそんなのお構いなしだ。それでいい。よくわかっていないオレのことなんてまだ、見なくていい。


「砂糖とミルク入れたら飲めたんだってばよ!んまい!」


おまえ、それは。


「ばか、フォローになってねえんだよ」




後に聞いた話では、そのときのオレの声はシュガーのように甘く表情はミルクのように穏やかであったらしい。
サイの妙な表現のせいでやや脚色がかっているような気もするが、たしかにオレはあのナルトの言葉に怒っても苛ついてもなく、むしろ心内は真逆の。
何が何だか、自分のことなのにさっぱりわかっちゃいないオレだったが、しかし今度こそはあいつにうまいコーヒーを飲ませてやりたいと、例えシュガーとミルク漬けにされてもいいからと、そう、思っている。





Fin.
‐‐‐‐‐
お誕生日にらくあちゃんから頂きました(´∀`)
いつかのカフェ設定でvV
まじ美味しすぎる(^q^)

ってか誕生日いつだよ貴様って感じですよね(O.O;)

とにかく、ありがとーうvV

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