気のつかぬ春 名付けたかっただけなんだ。 このモヤモヤした気持ちが何なのか、分からなくてムカついた。 ムカついて、イラついて、訳もわからず当たり散らした。 いつもピリピリしてて、人と会うことにすら嫌気がさしていた。 それでも任務はサボるわけにはいかないから、逆に、もう、これでもかってくらい完璧にこなした。 やってやってやりまくって、 「しっかりしろッ!!」 遂に緊張の糸が途切れた。 オレは任務中に意識を失った。 * 目を開けると真っ白な天井がオレを出迎えた。 「あ、気づいた。」 声のする方に視線を向けると、サクラがせんせーと言ってどこかへ駆けて行くところだった。 とりあえず起き上がろうとしたら、何かに引っ張られた。見ると、突っ伏して寝こけている金髪頭にしかと手を握られていた。 思わずソレを振り払った。握られた手がなんだか、熱く感じてジンジンとした。ナルトはその衝撃で目が覚めたのかモゾりと動き出した。 「ん……。」 まだ覚醒仕切らない薄く開いた目の、涙の溜まったアオイ瞳。 「サス、ケ……。」 あまつ、掠れた声で名を呼ばれれば、動く唇に目が奪われる。 青く揺れる瞳と赤く濡れた唇。ふっくらとした頬に近づきたい衝動。ただの顔の一部分だというのになんだ、これは。なんだ。なんなんだ。 「ナ……」 「サスケ起きた〜?」 ガラリと戸を開け、遠慮なく入ってきた上忍は、 「過労だよ」 と言い放った。 * 「神経張り詰めすぎだよ。」 「もう少し、自分に優しくしてもいいんじゃない?」 「他人をもっと頼りなさい。」 わかってる。そんなことは。こういう所に世話になる度に聞かされてきた言葉。そんな慰めるだけの言葉はもう聞き飽きた。しかし、カカシはオレの肩にポンと手を乗せ、 「今日はゆっくり休め。」 とだけ言いって、何もせずあっさり帰ってしまった。 「え、ちょっ、カカシ先生!」 あまりにあっさりし過ぎていて、たまらずサクラが追いかけた。 * 「…行っちゃったってば。」 「……。」 呆気にとられて何も言えなかった。戸が閉まると急に静けさが増して耳が痛かった。取り残された部屋には、ふたりだけだった。 「サスケ……。」 ナルトがその静寂を破ったが、それもまた妙な雰囲気を漂わせ、なんともいたたまれなかった。 「…お前も帰れよ。」 「え。」 「なんだか天気も悪ぃし、そろそろ日も暮れるだろ。」 適当な言い訳だった。しかし、このいたたまれない空気を払拭するには十分だと思った。 「サスケ、オレ……。」 それに、さっきナルトに感じた違和感。惹き付けられる感覚。これ以上ナルトと一緒に居たら、オカシクなってしまいそうだった。 「いいから帰れよ。」 だから、ナルトの言葉を無理やり切った。一人にしてくれ。そう項垂れると、ナルトはそっと立ち上がり、こんなことを言ったんだ。 「後悔したくないからさ、」 ……何が。オレが聞き返す間もなくナルトは続けた。 「サスケが無事で良かった。」 また来るから、と照れてはにかむヤツを見て、トクリと胸が高鳴った。 なんだそうだったのかと思った。 名付けたかっただけなんだ。 このモヤモヤとした気持ちに。 ソレは、 恋と言う名の、春の訪れ。 fin. ‐‐‐‐‐ 突発文再録&加筆修正 [*前へ][次へ#] [戻る] |