最低なバレンタイン
胸が焼ける。甘ったるい匂いに立ち眩みそうになりながら。けれど、それより大切なものがある。
毎年この時期になると、チョコレートチョコレートって騒いでうるさかったので、オレにやる気はないのかと聞いたら、
「オレ男だし。」
と言われたので、じゃあオレが作ると言ったのは3日前。
面倒だから、適当にチョコレート溶かして型にはめるだけの簡単なやつにしようと思ってたら、昨日になってガトーショコラだなどと注文つけてきやがった。
どうせ作れないだろ、なんて売り言葉に買い言葉。ホールごとくれてやるから残さず食え、と捨て台詞を吐きその場を去った。
帰って早速購入したばかりの『お菓子の本』などと言うものと睨めっ子しながら淡々と作り上げていく。
チョコレートの甘ったるい香りが部屋中に漂って本当に胸焼けがする。
どんだけ砂糖入れるんだってくらい入れたが、味見しなかった。だから、どれくらいの甘さなのかはさっぱりわからなかったが、本の通りだから間違いないと思うことにした。
バレンタイン当日、作ったから取りにこいと電話すると、
「世界中でどこにバレンタインチョコレート取りに来させるヤツがいるってばよ!」
と言って電話が切られた音がしたので、仕方がないから届けに行った。
綺麗な包み紙なんてありゃしないから家にあった皿にのせて運んだ。
***
「うわぁ…マジにコレ、お前が作ったの?」
目をキラキラさせながらオレとケーキを見比べるナルトに、食わないなら返せと言ったら、
「食う食う!上がって!」
と、何故かお邪魔することになった。
ケーキをテーブルに置くと、台所に行くなり、
「牛乳でいい?」
と言って、聞いたくせにマグカップを2つ持ってきた。
ついでにフォークが2本手に握られていたから、
「オレは食わない。」
と言ったら酷く残念そうな顔をして形だけ、と言ってテーブルに置いた。
6等分にカットして、いただきますと勢いよく食らいついて幸せそうにしていたのは2切れまで。
「これ、全部…今食いきらなきゃダメ?」
「オレがいるうちに食いきれ。」
約束だからな。
そう言うとぐと息を飲み込んで、再び食べ始めた。
上がってからもう何時間だろう。
「さすがに限界だってばよー。」
後ひと切れになったガトーショコラは、まだ持ってきた皿の上にある。
「ちょっとくらい手伝えってば……。」
横になって半泣きになりながら訴えてくるので、まだ綺麗なフォークを手にとって、ケーキをすくう。
チョコレート。そう考えただけで食欲が減退したが、自分で作ったものだからもしかしたら食べられるかも、と口を開けた。
急激に口の中で広がる甘さ。
青ざめるオレに体を起こすナルト。牛乳はすでに飲みきってしまっていて流し込む術はない。
気づいたらキスしてた。ナルトから。いや、自分からしたのか?
そんなのはどっちでも良かった。甘い塊をどうにかなくそうとするために必死で、ぬるりとしたものが口内に差し込まれた時は頭がどうにかなりそうだった。
口を離すと茶色い糸がひいて、ロマンチックの欠片も感じられなかった。
「ムードないってばね。」
ナルトに言われて、さっき頭をよぎった横文字が恥ずかしくなった。
「っていうかお前、甘ぇんだよ。」
最低なバレンタインだ。
けど、
「ごちそーさま。」
幸せそうな顔見たら、やっぱり作って良かったと思ってしまったんだ。
fin.
‐‐‐‐‐
「顔真っ赤だってば。」
「ウルセェ。」
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