凍える影が夢見るもの1
*静雄と臨也が24時間戦争しないパロ
*タイトルから大元が分かった人はすみません見逃して。
家に帰ると、知らない男が夕飯を作って俺を待っていた
「お帰り!遅かったねぇ、お風呂より先にご飯にしなよ
お風呂に入るのって案外体力使うから、満腹になって汗流してさっさと寝るといい」
しかもよくしゃべる
煩いやつは苦手だ
というか誰だ、こいつ
男は俺の持っていた鞄をさりげなく受け取り(奪い取り)上着を脱がしハンガーにかけている、新妻か
まじまじとその顔を眺めると、目の前の男の顔が非常に繊細かつ巧妙に作られていることに気づいたが、重要なのはそういうことではない
「……お」「お前は誰だって、聞きたいんだよね?うん、帰ってきて知らない男が自分の家にいたらびっくりするだろうし普通警察呼ぶよね、分かっているさ
ただ、警察呼ばれるととっても困るんだよねぇ俺
その代わりってわけじゃないけど、君に悪いことはしないさ、絶対にね」
本当によくしゃべる男である
しかも怪しい、何がとははっきりと言えないがどこか胡散臭い
まず警察を呼ばれて困るというのは普通の人間ではない
そして第六感というやつだろうか、それがざわざわしている、気がする
第六感とは五感を補うためのものだと考えるとここは信用してもいいのではないだろうか、大いに、多分に
「あ、それと、俺の名前は臨也っていいます、平和島静雄さん!」
「なん」「何で名前知ってるかって?それは難しい質問かもね…ああでもね、部屋の前に書いてあるよ」
「………うぜえ」
「え?」
なんなんだ、この男は
人の家に勝手に入ってきて(勝手に夕飯作って)
だいたい鍵をかけている部屋にどうやって入ったのかと聞きたい
泥棒か、新手の宗教勧誘か、詐欺師か
とにかく、ろくなやつじゃない
「とりあえず出ていけ、今すぐにだ
てめぇ怪しすぎんだよ、なんかうぜえし」
「こんな好青年に向かってうざいってひどくない?
そりゃ怪しいのは百も承知さ、でもここは諦めて、俺のことは母親とでも思って、ね」
「思えるか!」
なんで俺が諦めなきゃならない、こいつが出ていけばすむ話だ
無理やりにでも叩きだしてやろうとすると、男はまぁまぁ落ちついてシズちゃんなどとほざいてにやにや笑いやがった
シズちゃんってなんだ
「シズちゃんって静雄でしょ、だからシズちゃん
かわいいね」
「ふざけるな、その呼び方やめろ
そして今すぐ出ていけ」
「ひどいシズちゃん、お母さんの俺に向かって出ていけだなんて」
「いつからお前は俺の母親になった」
「だってシズちゃん、お母さんいないでしょ」
男は――臨也は、ことりと首を傾げるとにっこり笑いながら言った
お母さん死んじゃったもんね
しかもシズちゃんのせいだよね
さびしいね
「……なんで知ってる」
「風のうわさで聞きまして」
男は踵を軸にくるりくるりと回りながら言った
やはりこいつ怪しい
瞬間的に、くるくる回るそいつの首を絞めたくなって、強く意識して衝動を押えこむ
悪い癖だ、すぐに手が出そうになる(しかし不法侵入者相手には手を出していいようなきもする)
「俺、実は家出してきたんだぁ…だからさ、外に居て見つかったら困るし、警察に突き出されるのはもっと困る
シズちゃん、お母さんいなくてさびしいでしょ?俺がそばにいてあげるよ、ご飯も作ってあげるし、掃除もするよ
なんなら夜は一緒に寝てあげるし、朝は起こしてあげる
ねぇ、いいでしょ?」
「いいわけあるか」
「シズちゃんさぁ、忘れてると思うけど、俺に一度…いや、何度か会ってるんだよ
ということは顔見知りだよね、その顔見知りがわざわざ家まで来てこんなに頼んでるんだよ、ここは助けてあげなきゃ人としてどうかなぁ」
「お前の方こそ人として問題ありだろうが
俺はてめぇなんか知らねぇ
知らねえ人間が勝手に家ん中入ってきてしかも住ませろだぁ?ふざけんな
しかもどこで知ったか知らねえが個人情報暴きやがって
今すぐ出ていかねぇとマジで警察呼ぶからな」
「そんな、お願いだよシズちゃん!俺、ここ以外に行くところないんだ」
「出ていけ」
俺はまだ何か喚き続ける不法侵入者の襟もとを今度こそ摘み上げると、問答無用で玄関から放り出した
素早くドアを閉めて鍵をかけてようやく一息つく
ドアの向こうは意外に静かだった
のろのろとリビングに戻るとハンガーにかけられ(ブラッシングされた)上着を見、椅子の上に置かれっぱなしの鞄を見、テーブルに用意された夕食を見た
(意味の分からない男だった、とりあえず明日は新しい鍵を作りに行こう)
帰って来た時に湯気をたてていた夕食は、今は冷めていたが美味しそうだった
しかしどこの誰が作ったと知れない(誰かと言われればあのイザヤとかいう男なのだが)ものを口に入れるような不用心なことはしない
戸棚を開けてカップラーメンを取り出し湯を沸かしている間、先ほどの変な男についてしばしもの思いにふける
…ドアを閉める瞬間に見えた、赤い目が脳裏に焼きついたように離れない
紺色の夜にそれだけが光っているように見えた
まるで親に捨てられたように、縋る様に俺を見上げていた
…しかし俺には関係ないことだ
なぜなら俺はあんな男をしらないからだ
きっと新手の詐欺だろう、見目がいい顔はそのほうが騙されやすいからに違いない
俺は沸騰した湯をカップめんに注ぐと、まずくもうまくもないそれを食べて風呂に入り、早めに寝た
夢は見なかったように思う
そして
次の朝、ゴミ出しをしようとドアを開けた俺は、自分の部屋の前にうずくまる様にして眠る男、臨也を見つけることとなる
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20100921
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