[携帯モード] [URL送信]

僕だけの祈り・短編集
1





「ユミ、俺を庇うな」
雪彦がそう言うと、黙ってしまった由実はもうその両肩に反省の色をどっしりと背負っていた。
 そして、突然泣き始めたかと思えば、脇目もふらず新城廻の頭を抱き寄せたので、雪彦はその雰囲気に思うところがあり、中丸良を誘ってその場を離れた。

 音を立てないように留意して靴をはき、廻の家を出る。扉が完全に閉まったところで、立ち止まった。良が黙って自分を見ているのを感じ、そちらを向いた。
 目が合うと良が言う。
「渡辺が出て行ったっていうことは、なんだ? 房近が廻をどうこうするとでも?」
「や、わかんないけど。あの雰囲気は俺達はあそこにいちゃ駄目でしょ」
 ふぅっと良が溜め息をつく。
「あいつ、やっと廻の気持ちを受け入れる気になったのかな」
 幼馴染みとしては、廻が由実を想うのを心配で仕方がなく、由実が受け入れてくれるのであれば喜ばしいことだろう。
 雪彦は苦笑い。
「ユミは流され易いから、あそこまで想ってくれれば、そのうち落ちるとは思うよ」
 そう言って歩き出した。いつまでも廻の家の前にいても、いつか中に入るわけではない。
 二人が良い仲になって、中で色々始めてしまう可能性もないわけではないのだから。
 この後、二人がどうなったのかは明日聞くことにして……。
「これからどうする?」
 後をついてくる良に問いかける。
「どうでも、好きにすれば」
 良の返事はそっけない。相手を突き放しているようにも聞こえるが、雪彦は彼がそれほど冷たい人間ではないと知っているので気にしなかった。
「じゃぁさー……そうだなぁ、ゲーセン行きたい。駅前のでっかいとこじゃなくて、小さ−いゲーセンな」
「ゲーセン? 俺、あんまり行かないんだけど。渡辺はよく行くのか」
「いや。女と普段行かないようなとこ行ってみたい。駅前のでかいとこは、UFOキャッチャーはするんだけど。ぬいぐるみとかね、女の子は取ってあげると喜ぶから」
「ああ。だから小さいとこ行きたいんだな」
「そう。駅前まで行くと知り合いに会いそうだしな」
 雪彦が言う知り合いは、女の子のことだ。同じ学校の女子だけではなく、他校の付き合ったことがある女子にも遭遇する可能性があるので、駅前まで行くのはためらわれる。
「じゃー……駅前だけど、裏通りの方にある小さいゲーセン行く? 俺、そこしか知らねぇ」
「行く」
 雪彦はすぐに返事をした。


 格闘ゲームなんて、中学以来。久しぶり。
 雪彦は反対側に座る良を相手に連戦連敗。500円をつぎ込んだところで、
「あーっ!」
 両手を挙げて、降参した。
 良は雪彦がそのまま両手を機械に叩きつけるのかと思ったがそうではなく、ゆっくりと画面に向けて突っ伏してゆく。
「反射神経が違ぅよ……良ちゃん」
「いや、俺は……暇な時、家でやってるからな」
「良ちゃんがこういうゲームするんだ?」
 話しているところで、背後に別の客が待っていることに気づき雪彦は立ち上がる。笑顔で、
「どうぞ」
 と席を譲ると、20代くらいの男(推定、フリーター)は驚いた顔をしていた。
 店内を見回すと隅にプリクラが二台あるのが目に入ったが、男二人でプリクラはないよなぁ…と目線を素通り。
 出入り口付近にあった、プリクラに負けず劣らず大きな機器に目が止まる。
 ガンシューティングだ。
「お、あれやってみたい」
「ん?」
 雪彦は指差し、そちらへ歩き始める。
「おー……こういうの好きか?」
「特に好きってわけじゃ……。でもやってみたい」
「よっし!」
 1PLAY100円、の案内を見て良が200円を投入する。そのまま1プレイヤー側に立ち、重い銃を取り上げた。雪彦もそれに並ぶ。
「100円、後でな」
 そう言って、玩具の銃を持ち上げた。
 意外に重いもんだな、と思う。




[次へ]

第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!