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先生のおしごと
※猿→銀→土 ぜっさん




 「あのさぁ、俺ホモ
 だからわりーけど女
 のお前にはこれっぽ
 っちも興味もてねぇ
 んだよね」



 だからこれ以上付き
 纏わねぇでくれる?
 、と坂田は悪びれる
 様子もなく言い放っ
 た。まずいものを見
 てしまった気がする
 。坂田も猿飛も俺の
 クラスの生徒で、明
 日も明後日もあいつ
 らは教室で顔を合わ
 せる。だってのに坂
 田はあんな手酷いや
 り方で猿飛を振った
 りしてしまってこれ
 から先上手くいく筈
 がない。何考えてる
 んだ坂田の野郎。ホ
 モだなんて嘘吐いて
 まで振らなくたって
 いいじゃないか。も
 っと優しく、やんわ
 りと突き放す方法く
 らいいくらでもある
 のに。


 「俺の好みはね、M
 はMでもてめーみて
 ぇなMじゃなくて、
 土方先生みてぇなM
 なの」

 「…土方先生?」



 おいおいおいおい。
 坂田それはないだろ
 う。何適当なこと言
 ってんだ。嘘だとわ
 かっていても気持ち
 が悪い。Mっつー単
 語から俺を連想した
 坂田が非常に気持ち
 悪い。やり過ぎじゃ
 ないか。

 「銀さんは本当にホ
 モなの?」

 「だから言ってんじ
 ゃん。女の裸見たっ
 て勃たねーしなんも
 感じねーの。俺は土
 方先生一筋だから」

 「……私、Mだから
 そのくらいなんてこ
 とないわ。銀さんが
 土方先生を好きなん
 だったらそれで構わ
 ない。だから、」





 せめて私の名前呼ん
 で下さい、と猿飛は
 消え入るような声で
 言った。言われてみ
 れば、今までの会話
 で一度も坂田は猿飛
 の名前を呼ばなかっ
 た。それに、今日ま
 での学校生活の中で
 、坂田は猿飛の名前
 を呼んだことがない
 気がする。まあ、高
 校教師の俺が担任を
 している生徒といる
 時間なんてたかが知
 れているが。


 「いやだ」

 「……なんで」

 「名前口に出すと親
 しみが湧くじゃん。
 俺、余計なしがらみ
 作りたくねーんだよ
 ね。大切なモンは一
 個でいいんだ。他の
 モンには名前があろ
 ーとなかろーと関係
 ねぇし。だからてめ
 ぇもその他大勢も、
 テキトーにつけたあ
 だ名で呼んでんの」


 この生徒はなんと冷
 たいのだろう、と俺
 は心底衝撃を受けた
 。猿飛だけではない
 、クラスメイトのほ
 ぼ全員の名前を呼ん
 だことがないのだ、
 坂田という男は。な
 らば俺は何故、土方
 先生と呼ばれるのだ
 ろうか?



 「だから、銀さんは
 先生のこと…多串セ
 ンセー、なんて呼ば
 なくなったのね」

 「うん。言霊って本
 当にあるって俺は思
 ってっから、土方先
 生に関することは絶
 対ぇ口に出すよーに
 してんだ」



 ああ、こいつは本気
 で俺が好きなのだ、
 と頭を打たれたよう
 な思いがした。猿飛
 を上手く振る為の嘘
 でも誤魔化しでもな
 く、本気だからこそ
 恥ずかしがる様子も
 なく口に出すのだ。
 言霊はある、と俺も
 思う。口に出すこと
 によって決意や弱音
 、呪詛なんかはより
 強力になって世の中
 に蔓延る。言葉は空
 気を媒体にして人の
 体に染み込みその人
 間を変えてしまう。



 「な、だから俺のこ
 となんて忘れなよ」

 「無理に決まってる
 じゃない。明日も明
 後日もずーっと顔あ
 わすのよ」

 「……だよね。ま、
 知ったこっちゃねー
 けど」

 「冷たいのね。……
 でも、そんとこがス
 キ」


 誰も聞いてねーよバ
 ーカ、と坂田は薄く
 笑った。猿飛は教室
 を後にした。俺が覗
 いていた方とは逆の
 ドアから出ていった
 から助かったが、俺
 はどうすりゃいいの
 かよく分からなくて
 、ぼーっとそこにつ
 っ立っていた。別に
 どうもしなくていい
 のに。

 「あーあ、めんどく
 さ」



 ね、先生、と不意に
 坂田は口にした。ま
 さか、先生って俺?



 「ずっと聞いてたで
 しょ」

 「ガラスに反射して
 映ってたから、俺か
 らは丸見え」

 「ま、そんな抜けて
 るとこも俺はすきな
 んだけど」


 俺は一言も発せずに
 、ただただ坂田の顔
 を穴が開く程見つめ
 ていた。何なんだこ
 いつは。本気で言っ
 てるのか?口説くに
 しても軽すぎるだろ
 う…って、そんな問
 題じゃないことは明
 白なんだけど。



 「なあ先生、聞いて
 たんだったら答えて
 よ」

 「……何を」

 「先生は俺のことス
 キかどーか」

 「…生徒として、な
 ら」

 「そんなんが聞きた
 いんじゃねーよ。俺
 が先生の恋人になれ
 っかどーか知りたい
 の」

 「…坂田、俺はそれ
 に答えらんねぇし答
 えたくもねぇよ」

 「なんで」

 「俺が先生だからっ
 つーのの前に、まず
 おれは同性愛者じゃ
 ねぇ。そんで先生っ
 つーのを踏まえて生
 徒はありえない」

 「……だよねぇ。わ
 かってたけど」



 はっきり言われちま
 うと何かクルなあ、
 と坂田は目線を下に
 下げた。



 「……しがらみが面
 倒臭いなんて言うな
 よ」

 「え?」

 「俺だって言霊とか
 あるっちゃあると思
 う。だからこそ、や
 っぱ名前くれぇ呼ん
 で、面倒臭ぇしがら
 み作るべきなんだよ
 。一人じゃなんも始
 まんねぇ」

 「……うん」
 「お前が面倒臭ぇと
 思った猿飛の告白だ
 って、坂田と猿飛の
 しがらみで、それは
 猿飛にとっては大事
 なもんな訳だろ」

 「そーかもね」

 「それと同じように
 てめぇは…俺とのし
 がらみ、大事にして
 くれてる訳じゃねぇ
 か」

 「………あ」

 「だろ?お前にとっ
 ちゃ意味ねぇ関係も
 相手にとっちゃ重要
 なもんなんだよ」

 「…つまりそれって
 さぁ、もっとみんな
 と仲良くなりましょ
 ー、ってこと?」

 「………ま、簡単に
 言うとそうだ」

 「たまには先生っぽ
 いこと言うじゃん」

 「当たり前だ、先生
 だからな俺は」

 「……先生のこと、
 好きいていーならそ
 んくらい苦でもない
 けど」


 スキでいていーのか
 な、と坂田に尋ねら
 れた。俺は何と答え
 るか迷った挙句、勝
 手にしろ、なんて無
 責任な言葉を返す。



 先生ってのも楽じゃ
 ない。生徒の恋愛に
 首突っ込んで振り回
 されたり、高校生に
 もなって友達付き合
 いについて心配させ
 られたり。ま、そう
 いうことがしたくて
 先生になったんだけ
 どさ。



 (先生のおしごとは生徒
 の心配をすることです)







あきゅろす。
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