真夜中のバースデーコール
※銀→土 パラレル
深夜二時、携帯電話の着信音が俺の目を覚ました。坂田からだった。
「んだよ坂田…俺寝てたんだけど」
「悪ぃわりぃ…でも土方ぁ、お前今日誕生日じゃん」
メリークリスマス、あ、間違えた、ハッピーバースデー。坂田は明らかに呂律の回っていない口調でそう言った。メリークリスマスって。
起こされた怒りと祝われた照れとがない交ぜになった感情が広がる。高校の時から仲が良く、俺にとって坂田は親友と呼べる存在だった。
しかし大学に進学し、互いの大学生活のリズムがわからず、自分のことで精一杯だったため連絡を取ることもなかったのだ。
正直寂しいと感じていた。自覚のある気難しい性格のため親友はおろか、そこそこな仲の友達を作ることすら難儀な自分。新しい環境で少なからず生きにくさを持っていた。
高校の時気兼ねなく過ごした放課後を懐かしく思うこともしばしばだ。
そんなここに来て坂田からのバースデーコール。
たとえ疲れて眠っていた最中でも、坂田が酔っ払ってかけてきてメリークリスマスと言われようとも、俺は一人でにやにやしてしまうくらいには嬉しかった。
「…ありがとうな。お前が一番だ、祝ってくれたの」
「まじでぇ?やったね、土方の一番だ」
「…飲んでんのか?」
「うん。ちょっとだけだけどな。土方の誕生日祝いと思って」
「んだよそれ。てめぇが飲んだって仕方ねぇだろ」
「そうなんだけどね」
そこから少し、他愛もない話をした。坂田が入ったサークルの話、同級生達の近況や俺が入った学部のこと、久しぶりに色々喋った。
突然坂田が口を閉じたので、俺はどうした、と尋ねた。何か機嫌を損ねるようなことを言ったのか。
「…土方ぁ、俺に会いたいとか思わなかった?」
「はぁ?なんでだ」
「毎日会ってたじゃん、高校時代。寂しくならなかった?」
「…まぁな、少しは」
嘘だ。なかなか寂しかった。
「俺はね、ようやく土方と離れられるってほっとした」
「…え?」
「もう自分の気持ち必死になって隠さなくていいんだって、思っちまった。でもやっぱり死ぬほど寂しくて、会いたかった」
「待て、意味がわかんねえ」
坂田は今、俺から離れられて嬉しかった、的なことを言わなかったか?
俺は恥ずかしながら涙が出そうになった。鼻の奥がツーンとした。
「ちょっと聞いて。お前はずっと、高校生活俺のとなりにいたよな。それが当たり前で、俺はそれがどうしようもなく嬉しかった……。好きなやつがずっと隣にいてくれたんだ、そりゃ嬉しいよな」
「なんだよ気味悪ぃ。恥ずかしいこと言うなよ」
よかった。俺のことが嫌いだった訳じゃなさそうだ。
それどころか好きだってさ。男同士で好きだなんて言うのはこっ恥ずかしいが、俺も坂田のこと、友達として好きだ。
「…好きって、違う意味でね」
「え?」
「俺高校の時から、土方のこと好きなんだよね」
「…はい?」
「ずっと隠してたし、言う気もなかった。大学行ったらどーせ会わなくなるし、そしたら自然とまた好きな女の子できるかな、なんて考えてたから」
でもだめだった。坂田は至極泣きそうな声でそう呟いた。
「なんか思ってたより土方のこと好きだったみてぇでさぁ、ずーっと忘れらんねぇの。連絡も取らないように我慢してさ…だってのに毎日お前からの連絡待ってた」
来ねぇからとうとう電話かけちゃったけど。まあ誕生日おめでとーつって切るだけのつもりだったのにね、こんなこと言うつもりなかったんだけどね。
そんなことを坂田は言った。そして、ホモだなんて気持ち悪ぃ、そう言えと、俺に頼んだ。
「さすがにお前の口から言われたら、諦めつくかなって。ごめんな、誕生日そうそうこんな電話して。それさえ言ってくれりゃ、すぐ切るから。お前が嫌ならもう顔も合わせねぇし」
「嫌だ」
「え…」
「顔合わせないだなんて言うなよ…俺、お前以上に仲良いやつなんていねぇのに」
咄嗟に本音がでてしまった。はっとして口をつぐむ。僅かな沈黙。坂田は心なしか声を弾ませ、俺に尋ねた。
「じゃあさ、今まで通りでいてくれんの?…俺の気持ち知っても」
「…正直、いきなり言われてもわかんねぇよ。お前がまじなのかも判断つかないし」
「そこ疑うの?もっとたくさん愛の言葉が欲しい?」
「いやそういう訳じゃなく」
「好きだ土方。こんな言葉じゃ足りねぇくらい。もう言っちまったもんは仕方ねぇから、お前のこと、絶対モノにしてみせる」
「坂田…」
「そんな困ったような声出すなよ。ねぇ、土方彼女なんてできてないよね?」
そこからは、坂田お得意の自分のペースに相手を巻き込むマシンガントークで俺を質問攻めにした。
好きな子は?男は絶対ムリ?それとも俺にも少しは可能性ある?好みのタイプは変わってない?女優で言うと?かっこいいと思う男優はいる?エトセトラエトセトラ。
そして最後に、こう言って電話を一方的に切った。
「なんかもう開き直ったらすげー土方に会いたくなっちゃった。明日夜ひま?お前んち行っていい?つーか行くわ。予定あけとけよ。誕生日プレゼントやるからさ、じゃあ。あ、俺お前のこと好きだからな!」
通話終了の音が虚しく耳に響いた。
嵐のように捲し立てられて、それでも俺は、明日坂田に会えるのが嬉しい。
決して恋愛感情ではない。がしかし、坂田との繋がりは持っていたい消したくない。
なんだか面倒なことになったなあ、なんて思いつつも、坂田の勢いに飲まれるのは心地よかった。
きっと、このまま俺はなんとなく流されて坂田のことが好きになり、押しきられて付き合って、そして坂田に幸せにしてもらうんだろうな、と朧気に思った。
まぶたが次第に重くなってきて、ゆっくりと意識が沈んでゆく。
最後に思ったのは、坂田の鈍く光る銀髪だった。
(一ヶ月以上遅くなったけど、ひじたん小説!だいすき!)
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