堕ちる強情、絆す正直*
※銀土 原作
「年、明けたぞ」
坂田が耳元で囁く。背筋が震えた。
「ん、はあ、っふ」
「なあ、聞いてる?」
「きい、てる…っ」
「あけましておめでとう」
「あっ、ん」
あけましておめでとう、なんて言える余裕はない。
「…ああっ」
「イったね、土方」
「………っ最低だ」
何が?と坂田に問われる。
考えなくてもわかんだろ、馬鹿野郎。年越しがセックスの真っ最中ってことに決まってる。
「今年は絶対ェロクなことねぇよ」
「いいじゃん、気持ち良かっただろ?」
「…」
あれだけだらしなく身を任せておいて、気持ち良くなかった、とも言えない。
「俺は土方と一緒だったから、最高」
坂田は臆面もなくそう言った。
その言葉にどう返せばいいのかわからなくて、固まって口を結んでしまう自分が嫌だ。
せめて、なに言ってんだ天然パーマ、なんて減らず口叩くくらいはできるだろう。
もう何回も、こんなことがあった。
坂田のストレートな言葉が、俺には重いし、似合わない。
嬉しいとか嬉しくないとかの問題ではないのだ、ただ、自分がそれに答える力がないから、言われても沈黙が流れるだけで終わり。
その度に、今度こそ愛想尽かされるんじゃないかって不安が胸を過る。
でも坂田はまたすぐに、真顔で俺をまっすぐ見つめて、恥ずかしがる様子もなく、俺に恥ずかしい言葉を投げつけるのだ。
愛してるって言われて、俺もだ、なんて答える素直さは持ち合わせていない。
好きであればあるほど、本当の気持ちを伝えるのが怖くて、気恥ずかしくて、出来なくなってしまう。
こんなにも好きなのに、その一部分ですら伝わらない、伝えられない。
今年もそんな始まりはいやだった。
なあ坂田、お前の言葉を信じるから、だから、恥ずかしいけど、聞いてみるよ。
俺だって同じくらい、いや、それ以上かもしれない、そんくらいお前のこと、大切だから。去年も今年も、その先もきっとずっと。
「…坂田」
「ん?」
「…本当に、あの、お、俺と一緒で、…最高って思ってるか?」
「疑ってんのかー?最高に決まってんだろ。俺土方のこと今年も変わらず大好きだから」
「……よくそんなこと軽く言えるよな」
「思った時に言わねぇとさ、次言える時があるかなんてわかんないじゃん。…軽々しく聞こえてんなら、ごめんな」
でも、少しでもいいから俺の気持ちが土方に届けばなって思うと、いつの間にか口に出ちまうんだ、と坂田は言い、俺の髪の毛を柔らかく撫でた。
自分の顔が、赤くなっていくのがわかる。
それでも、顔を背けちゃいけないと思った。
こんなにも真っ直ぐに俺に向き合って、無償の愛情をくれる人は、他にはいない。
なのに何で俺は今まで一度も何も返していないのだろう。
貰うだけ貰って目を反らしていられたのだろう。
坂田の目を見て、小さくても、それでもはっきりとした声で、言おう。
「あ…あのな、俺も、お前のこと、ちゃんと、…好きだから」
「……うん」
「でも、いつも言えねぇで、坂田に言われてばっかで、悪ぃな、と…思ってたんだ」
「…そっか」
「だから、今年は…頑張る、っつうか、なるべく、素直に答えるようにっつうか、まあなんだ、その」
「…わかったから無理すんな」
坂田は小さく笑って、目を細めた。
まるで親が子を見るような目で俺を見るから、ちょっとどころかかなり悔しかったけど、でもそれが仕様がないくらい自分はしどろもどろだったと思う。
「わかってるから大丈夫」
「何がだよ」
「土方が俺のことだーい好きで、でも恥ずかしくて言えないこと。言わなくたって俺は分かるよ。安心しろって」
「……あんま自惚れんな」
「はいはい、…愛してる土方」
「………俺も」
どうやら幸先のいいスタートが切れたようだ。
これから一年間もこうでありますように、なんて柄にもなく願う。
少しは素直に、が今年の抱負。
絶対誰にも、言わないけど。
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