味気ない、キス
※沖→土 パラレル
綺麗な顔をした幼馴染みだと、思っている。
美しい両親に似た、白い雪の肌に映える髪、切れ長の黒曜石みたいな目、鼻もすっと通っていて、口が控えめについているのがちょうどよい、まさに端正な顔立ち。
ま、手放しに土方さんのこと褒める余裕があるくらい、俺だってましな顔してるってのも自分でわかってる。
土方さんとは逆で、丸い目に生まれつきの栗毛、まさに童顔、所謂可愛い顔。
そんな俺たちって結構お似合いじゃない、なんて考える俺を一般的に『ナルシスト』って呼ぶのは重々承知している。
だって本当のことだし?
「総悟そこのリモコン取って」
「いやでさァ面倒くさい。あんたの方が近いでしょ」
「いやどう考えても総悟だろ、手ぇ伸ばせば届くじゃねぇか」
「俺がジャンプ読んでんのが見えませんか」
「見えるけど」
「だったら邪魔すんなィ」
「一瞬じゃねぇかリモコン取るくらい!あーもう阿呆らしいな」
そう言って土方さんは体を起こした。最初からそうすりゃいいのに。
片手を支えに俺の体を跨ぎ、リモコンに手を伸ばす。無防備な横顔が俺の視界を塞いだ。
「邪魔」
「お前が取ってくんねぇのが悪いんだろ」
土方さんは意外に構ってほしがりだ。こうやってどちらかの部屋で暇を潰している時も、一人ではなく二人で時間を共有したがる。たくさん言葉を交わすことを好む訳ではない、切れ切れの単語で繋がるのが好きなのだ。
俺もおしゃべりな奴は嫌いなので、そんな土方さんが好きだ。
好きだっていうのはもちろん恋愛感情で。
「どいてくだせェよ」
「俺もジャンプ読みてぇ」
「あんたマガジン派だろ」
「総悟が読んでんなら俺も読む」
こんな無防備なセリフ、俺以外の誰が聞けるだろうか。
そもそも土方さんとこんな風に体を預けたまま話すような関係の奴は他にいない。
土方さんの素顔は俺のもの。ガキの頃のあんたも今のあんたも全部知ってるのは俺だけ。
「ん…」
こんな風にキスをできるのも、俺だけ。
「…欲求不満」
「あんたの顔見てるとしたくなるだけでさァ、なんつーか、エロいから」
「いつまですんだよ、こんなこと」
「いいじゃねェか、ガキの頃からしてただろィ」
「もう高校生だ、いい加減気持ち悪ぃだろ」
「俺は別に。誰が見てる訳でもねぇし」
「変な奴だな」
こんな特権、いつまでも味わってられない。それが分かっているから俺はキスをする。
土方さんの思い出に、普通の幼馴染みではなく、ほんの少しだけ違った部分があったと残しておきたいから。
俺の気持ちがキスと一緒に伝わらないかな、なんて乙女みたいなおまじないでもあるから。
俺が土方さんに、キスをしたいから。
「土方さんのファーストキスは俺ですよねィ」
「残念ながらな」
「俺のも土方さんですぜィ」
「いらねぇよそんな報告」
「好きでさァ、土方さん」
「いいからジャンプ貸せ」
いつの日か、今まで全部のキスと、今まで全部の好きっていう言葉に、俺の本当の気持ちが入ってたって気づいてもらえんのかな。
気づいてもらえないだろうな。
だからこそ、こんな可笑しい関係になってしまっている。
土方さんが最初のキスを拒めば、俺だって無理矢理にでも押し倒して、本気の顔で好きだって土方さんの真っ黒な目を見て言ったのに。
土方さんが受け入れるから、キスされてしまったから、そこからずるずる俺の気持ちを弄ぶように付かず離れずの間柄に留まってしまった。
報われないなら離れたい。通じあってるなら抱き締めたい。
思うのはそれだけ。
そんな些細なことも叶わない、だから俺は、諦めたように再び、土方さんにキスをするのだった。
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