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無欲な生者
※銀→土 パラレル




俺の心臓がいつまでもつのかなんてわからないけど、先生にあげるよ、俺の心臓。


「………っ」

「はい、終わり」

「ってぇ…何回やっても慣れねぇな、これ」

「慣れねぇ方がいい」

「なんで?」

「検査が当たり前になるなんてお前にとっていいことじゃねえ」

「でも既に結構当たり前なんだけど」

「そのうち当たり前じゃなくなるよ」



そう言って土方先生は注射器を置いた。

そんな日が来ないのは俺もわかってる。俺はもう治らない。ガキの頃から嫌という程通っているこの病院で俺は死ぬ。親と看護士さんと、土方先生に看取られて俺は死ぬのだ。満足に運動もできない自分の体を幾度となく呪った。しかし生きてるのも奇跡なのだから泣き声を言うのもいつしかやめた。奇跡をおこせたんだからもう死んでも構わない。十七年間生きてきたのが俺の唯一の人生の誇り。みんなが当たり前にやっていることではあるけれど。



「先生、」

「なんだ?」

「彼女、いる?」

「んなこと聞いてどうする」

「いなかったら頑張ろっかな、なんて」

「何をだ?」

「治療」

「そりゃいい。んなもんいねぇよ、俺ぁ忙しいんだ」



変な奴だな、と土方先生は笑った。隣に立つ看護士のミツバさんも笑った。

俺は本気で嬉しかった。好きだという感情を抱いたのは土方先生が最初で、そしてきっと、最後だと思う。


通院するたびに想いは増す。物心ついた頃から傍にいた先生。治療が嫌で、泣きわめく俺を根気よく宥めてくれた先生。手術を終えたあと誉めてくれた先生。そのどれもが俺の中で誰よりもきらきらして見えた。今も変わらない。先生に助けられて毎日を生きていく、体も、心も。



なのにどうして俺は先生より早く死んでしまうんだろう。叶わない気持ちを持ち続けられるだけで俺は幸せなのに、それすら叶わない。生きたい、もちろん人並みに過ごしたい。でもそれよりもっと先生の傍にいたい。別に恋愛関係なんて夢見ないから、患者じゃなくて友達とか、顔見知りとかなんでもいいから、だから。



「先生、俺、看護士になろっかな」

「いいじゃねぇか、何でそう思ったんだ」

「…生きてたいから」



生きて、先生の傍にいたいから。



「…なれたら、一緒に働けるといいな。つーかなれよ、絶対」




先生の顔が少し曇ったのがわかった。絶対なれよ、なんて無責任なこと言わないで。あと何年かの間ちょっと未来が見たいから、そんな未来に生きたいから、言ってみただけ。なれるだなんて思ってないよ。




「うん、だから待ってて先生」



俺の気持ちは全部先生にあげる。だから今だけ夢を見させて。先生の横で仕事する自分を、先生と一緒の志を共有する自分を。叶わない夢って分かってるから、今だけは。



大好きだ先生。死にたくないよ。







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