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叶わない、適わない
※沖土←近 原作




 「近藤さん…ちょっといい
 か?」


 トシにそう言われて断った
 ことなんてない。今日だっ
 てそうだ。だってトシがそ
 う言う時は決まって悩み事
 がある時なのだ。でも相談
 をするわけではない。ただ
 一緒に酒を飲み交わし、べ
 ろんべろんに酔ったトシを
 いつもとは逆に介抱するの
 がお決まりのパターン。


 でも、今日は違った。


 「こんどーさん」

 「ん?なんだトシ」



 酒も大分進み、トシの呂律
 は既にあまり回っていない
 。飲めないくせに飲みたが
 る、トシはいつもそうだ。
 酒の勢いに任せていろんな
 ことを一時だけ忘れようと
 するのがトシのストレス発
 散方。なんて不健康で親父
 臭いんだろうか。だけどそ
 れを止められないのは、酔
 いつぶれるのは俺の前だけ
 って決めてるトシが大切で
 愛しくて仕様がないから。




 「…俺思うんだ」

 「何をだ?」

 「こんどーさんがいなけり
 ゃ俺ぁ今でも田舎の芋侍だ
 って」

 「そんなこたぁないだろう
 。トシはどこにいたってい
 つかは大成する器をもって
 るよ」

 「でも、あんたとじゃなき
 ゃ意味がねぇんだ」

 「なんだトシ、やけに素直
 じゃねぇか」


 そう言うとトシは意味あり
 げに笑った。その笑みは武
 州で出会った頃からは想像
 できない程柔らかくて、で
 も、あの頃と同じように影
 がある。この儚げな雰囲気
 が女にモテるんだろうと沁
 々思った。

 俺もそんなトシが好きだ。
 どんなにお妙さんが好きだ
 と口にしてもトシに好きだ
 と告げることはない。ただ
 傍にいられればそれでいい
 のだ。俺を真選組の魂など
 と宣うトシが俺を見放さな
 いでくれればそれで、それ
 だけで俺はトシを笑って婿
 にでも出す覚悟がある。初
 めてトシを見た時から俺の
 気持ちが全てトシに持って
 いかれたことだなんて、ト
 シは知らなくていい。


 「…こんどーさん」

 「なんだ」



 「…そーご、何か言ってな
 かったか」



 そう、婿にやる覚悟はして
 いた。でも、まさか、男に
 、それもトシと同じように
 大切で大事な奴に持ってか
 れるなんて考えもしてなか
 った。


 二人が惹かれ合っているこ
 とに気付いたのはそう早く
 ない。ミツバさんを置いて
 武州を出た直後、トシは髪
 を切った。ミツバさんへの
 想いとの決別だとは薄々分
 かっていたが、その髪を切
 ったのが総悟と知り、なん
 となく総悟の気持ちが読め
 た。


 気持ちを捨てる為に髪を切
 ったトシ、それを手伝うこ
 とによって姉に気遣うこと
 なくトシへの気持ちをはっ
 きりさせた総悟。

 それから何年か、俺達の関
 係に変わりはなかった。傍
 目から見ても二人の間は犬
 猿の仲でしかなかった。

 然し突然決定打が訪れる。



 『俺、土方さんが好きなん
 でさァ』



 総悟は涙目でそう俺に告げ
 た。誰にも言えなくて、苦
 しくなっちまって、でも近
 藤さんなら聞いてくれると
 思って、と呟いた。


 『俺ァ姉上を裏切ったんで
 ィ。自分の恋路のために。
 最低な野郎でさァ』


 その言葉から、二人に何か
 があったのだと推測できた
 。俺には決して踏み入れら
 れない領域に、二人は行っ
 てしまったのだと。

 俺は笑って総悟を抱き締め
 た。

 『裏切りなんかじゃないぞ
 。自分に正直に生きろ。確
 かにミツバ殿は悲しむかも
 しれん。でもそれよりもっ
 と、総悟が自分の為に我慢
 をしたと知った時の悲しみ
 の方がでかいだろうよ。お
 前の自慢の姉上はそういう
 人間だろう?気に病むな、
 総悟に泣き顔は似合わない
 しな』


 そういうと総悟は小さくは
 にかんだ。俺の葛藤も知ら
 ずに。

 トシが人のモノになってし
 まう。ずっと壊れないよう
 に大切に大切に扱ってきた
 トシが、大事な弟分に持っ
 ていかれてしまう。俺はど
 んな顔して二人を見りゃい
 いんだ?俺の気持ちは一体
 どこに向かうんだ?


 そんな疑問も、次の日のト
 シの顔を見たら全て晴れた
 。

 すごく幸せそうだったのだ
 。幸せそうに、総悟の隣で
 煙草を吸っていた。総悟も
 、至って普通の表情だが、
 隠しきれない笑みが俺には
 見えた。談笑する二人に声
 はかけられなかった。あま
 りにもその光景が眩しくて
 、俺のトシとの理想図にそ
 っくりで。

 これでよかったのだと俺は
 そう思っている。ミツバさ
 んを幸せにできないトシを
 逆に守ってやることで総悟
 はトシの信頼を得た。苛め
 ることで総悟はトシに気兼
 ねなさを与えた。それだけ
 でトシは総悟を好きになっ
 た。トシがそれでいいなら
 それでいい。




 「そーごがな、何か知んね
 ーけど怒ってんだ、俺、何
 したかわかんねーし、どー
 しようかと思って」

 「なんだ喧嘩か。仕方ない
 奴らだな、俺が総悟にそれ
 となく聞いてやるから心配
 するな。でも後はトシが自
 分で解決するんだぞ」

 「…ん、悪ぃないつも」



 いいんだ、トシが幸せなら
 。俺がどんなに総悟を、ト
 シを憎んだとしても二人の
 関係は変わらない。俺が居
 る限り二人は一生離れない
 。俺が二人を引き合わせた
 のだから。



 「こんどーさん、ありがと
 う」



 お礼なんて要らないよ、だ
 から代わりにお前をくださ
 い。

 俺が叶えようともしなかっ
 た願いを叶えた俺の大事な
 弟分と、俺が見つけた人生
 で最初に好きになって人生
 の最後まで好きな大事な相
 棒の知らない俺が、小さく
 呟いた。









あきゅろす。
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