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七夕
※沖土 原作


 「総悟、今日何の日
 か知ってるか」

 「そんくれぇ知って
 まさァ、七夕でしょ
 う?」


 馬鹿にしねぇでくだ
 せェ、と暗がりの中
 不満げに呟いた。二
 人で夜中の巡回をし
 た帰りだった。七夕
 を俺が知らないと思
 った土方さんにムカ
 ついたわけではない
 。それよりも気にし
 て欲しいのは明日の
 ことだった。明日が
 何の日か、それが俺
 にとって七夕なんか
 よりも重要なことで
 、土方さんにとって
 も大切なことであっ
 てほしかった。だか
 ら、子供っぽい、と
 わかりつつも、さっ
 きの土方さんの問い
 に多少なりとも失望
 したのであった。



 「見てみろよ、空」

 「空?」


 土方さんに促され見
 上げた先には月があ
 った。丸く、緩やか
 な光を帯びた月。ま
 ごうことなき満月で
 ある。雲に周りを覆
 われ、何とも風情の
 ある姿に、よくもま
 あ七夕に上手いこと
 合わさったもんだ、
 なんて感想しか持て
 ないのも全部土方さ
 んの所為だ。



 「すげー満月だよな
 あ」

 「…ですねィ」

 「今世紀の最後なん
 だとよ、七夕に満月
 がでるの」

 「ふーん」


 土方さんらしくもな
 いロマンチックな豆
 知識に興味なさげに
 返事をした。俺は今
 夜の満月を決して綺
 麗だとは思わない。
 天の川を霞ませる程
 の月の光は鬱陶しく
 さえあった。美しす
 ぎるものは嫌いだ。
 自分が惨めになる。
 その純粋さを持たな
 い自分を恥ずかしい
 と思ってしまう。だ
 から土方さんに然も
 憎いかのように振る
 舞い、自分のせせこ
 ましい気持ちを押し
 隠すのだ。



 土方さんは美しい。
 面だけの話ではない
 。面だけだったら土
 方さんを凌ぐ野郎な
 んて腐るほどいるだ
 ろう。その魂が、情
 が、精神が痛いくら
 い美しいのだ。曲げ
 ない、曲がらない。
 それが真選組副長で
 あり、土方十四郎だ
 。


 「総悟の誕生日に月
 がでるのも今世紀最
 後だな」

 「え?」

 「そうだろ、」


 なんだお前、百年以
 上生きるつもりなの
 か、なんて呆れた顔
 で言う土方さんを穴
 が開くほど見詰めた
 。


 「土方さん、俺の誕
 生日覚えてたんです
 かィ」
「たりめェだろ、忘
 れたらてめェいじけ
 るじゃねぇか」

 「だって去年は忘れ
 てた…」

 「去年は…」


 その先の言葉は出て
 こなかった。土方さ
 んが急に顔を赤くし
 たからだ。


 「な、なななんでも
 ねェ」

 「なんですかィその
 怪しい反応。何か恥
 ずかしいことでもあ
 るんですか」

 「だからなんでもね
 ぇって」


 「馬鹿いわねぇでく
 だせェ、去年は、な
 んですかィ?」

 「去年は…意識しす
 ぎて言えなかった」

 「は?」

 「俺は…去年からて
 めぇが好きで、だか
 ら言えなかった。ん
 なこと言ったら俺の
 気持ちまで伝わっち
 まう気がして」


 何故土方さんがこん
 なに恥ずかしい告白
 を急にしだしたのか
 はよくわからなかっ
 た。ただそんな土方
 さんを堪らなく好き
 だと思い、先程まで
 は離れていた俺と土
 方さんの手をそっと
 繋いだ。生きている
 人の温かみを感じた
 。


 「俺なんかもっとず
 と前からあんたのこ
 と好きでしたぜィ」

 「…そうか」

 「あんたってたまに
 すげー可愛い」

 「たまにで悪かった
 な」

 「たまにでねェと俺
 の心臓もたねェでさ
 ァ」


 横を見ればいつもと
 変わらない顔で煙草
 を蒸かす土方さんが
 いた。俺よりずっと
 背が高いから、目線
 は合わない。それで
 も今日、二ヶ月ほど
 は一つ離されていた
 年齢も、また一つ追
 いついた。身長くら
 いすぐ伸びる。そん
 なことを考えながら
 少し背伸びをして土
 方さんの唇に優しく
 口付けた。もう月の
 光を鬱陶しいとは思
 わない。満月よりも
 美しい人が俺の隣に
 いて、尚且つ俺のモ
 ノでいてくれるから
 。それはたぶん、い
 や、絶対、これから
 ずっと、一生。




 (誕生日おめでとう
 !)








あきゅろす。
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