09、抱きしめてもいいですか
※八土 3Z
「何、これ」
昼休み何の気なしに屋上へ向かった。否、何の気なしっていうのは嘘。土方君がいるのをきちんと知った上で行った。日光に照らされた黒髪は俺には眩しすぎるけどそれすらも心地良く感じるのだから仕方が無い。
まあ土方君が煙草吸ってるとこ見る羽目になるとは思わなかったけどね。
「…見ればわかるだろ」
「まあそりゃぁ、煙草だね」
「………うん」
「土方君って煙草吸ってよかったっけ?」
「……よくない」
「だろ?先生こういうの好きじゃないなぁ。身長伸びなくなっちゃうよ」
「…先生だって吸ってるじゃないですか」
「先生は大人だからいいの。もう成長期は終わったし」
「…そんなのずるいっすよ」
「土方君が俺より遅く生まれたんだから仕様がないじゃん。何、先生みたいに煙草吸ってみたかったの?」
土方君はかぁ、と頬を赤く染め、俯き加減に呟いた。
「悪ぃかよ………」
あ、え、何、図星?冗談で言っただけだったのに。どうしようこの子可愛い過ぎるだろおい。そんなに襲われたい?俺の理性はもうぎりぎり。剰え土方君が目の前にいるという事実のみで気持ちは狼、って感じなのにそんな可愛い発言されたら………。
「…取り敢えず抱きしめてもいいですか」
「死ねエロ教師」
「ひっどー。いいじゃねぇかちょっとくらい。」
「嫌です指一本たりとも触れないで下さい」
「あーそういう事言うんだー。じゃあこの煙草は没収っつー事で」
土方君の足元に落ちていた煙草を拾いあげ、屋上から階下へと降りる扉に手を掛ける。
「…返して下さい」
「返してほしかったら放課後先生の所に抱きしめられにくるよーに」
びしっ、と人差し指を土方君に向け言い放つ。土方君は何か言いたげに眉を顰めたけれど気にしない。そのまま扉を閉め、職員室へと帰る事にした。
(あの子は本当に抱きしめられにくるだろーか)
答えは分かっている。沖田から取り上げたアイマスクも(何か目障りだった)、山崎から取り上げたジャンプも(読みたかったんだよね)まだ俺の机に乗っかったままだけど、土方君から不摂生するな、と取り上げたマヨネーズ(確か17本くらい)は全部無くなっているからだ。俺はその時も今日と同じような台詞を残した。
ほら、今日だってむくれ面した可愛いあの子の足音がする。足音だけで分かるって、土方君相当愛されてるじゃん。
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