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12、透過感覚
※近→土+お妙 原作






何か存在すらもすっかり薄れてしまって。ぺらぺらですかすかでふわふわとした感覚しか残らない。全てが俺をすり抜けて、俺は一人取り残された。



全てがすりけた




「近藤さん!」

「おぉ、総悟。どうした?」

「どーしたもこーしたもねぇでさァ。あんたがここん所ずっとぼんやりしてるから」

「そうか、悪いな総悟。俺は大丈夫だから、心配しないでくれ」

「…そんなやつれた顔で言われたって説得力ないでさァ。いいから休みなせィ」


土方のヤローには俺が付いてますから、と総悟は言い残し何処かへ消えた。休めと言われても休まれないのだから仕様がないじゃないか。トシが意識を取り戻すまで、俺はトシから離れたりなんかしない。絶対に。



トシが事故にあったのはつい数日前だ。自動車に撥ねられ、意識不明の重体。トシを撥ねた車は今だ逃亡中で見つかっていない。どうせ事故に見せかけた攘夷派によるテロ行為なのだろう。それからというもの俺は病院に入り浸り。片時もトシの側を離れない。否、離れる事が出来ない。もし、もしも失ったりなんかしたら取りかえしがつかないから。こんな感情は初めてだ。怖くて怖くて堪らない。お妙さんにも会いに行きたいと思わないのだ。それ程トシを仲間として大切に思っていたという事だろう。



それは真選組全員がそうだ。山崎なんか毎日ボロボロ泣いているし、原田は顔色が壮絶に悪いし、何時も憎まれ口ばかり叩いている総悟ですら目の下にクマを作っているのを知っている。隊士みんながトシの生還を祈っていて、俺の感情だってそれと一緒な筈。だけどそれとは別に、心がもやもやとするような何かがある。しかしそれは掴もうとするとスルリと俺をすり抜けてってしまう。

「あらご無沙汰でしたね、ストーカーゴリラさん」

病院にいたら総悟に外の空気を吸ってこいと追い出されたので、ひさしぶりにお妙さんの所へ行ってみる。今日は普通に歩いて普通にお妙さん前の登場したので、初っ端からお妙さんの強烈なパンチを繰り出される事はなかった。何だか新鮮である。



「……お妙さん、俺ぁよくわからん事になっちまいました」

「…どんな事?」

「トシが事故にあってから、何も手につかんのです。全てが俺をすり抜けてって、独り残されちまったような…そんな感じがしてしまって。だからお妙さんの元へ行こうという気も起きずにいました」

「そんなの決まってるじゃない」

「…決まってるって…?」

「あなた、土方さんの事が好きなのよ」
「は?」


またこのお方は何を言い出すのだろうか。俺がトシを好き?んな馬鹿な…俺はお妙さん一筋だ。……アレ、でもだったら何でこんな悠長にお妙さんに相談事なんかしてるんだろうか。前だったらお妙さんを見るだけで体がウズウズしていてもたってもいられなくなったのに。嘘、俺どうしちまったんだ?


「私はずっと前から思ってましたよ」

「…というと?」

「あなたは土方さんの事が好きなんだろうなって。男を好きになるなんて信じられない?まあ家族であり仲間であり部下である土方さんだものね。でもね、思い出して下さい。あなたが私に惚れた理由、何でしたっけ?」


『ケツ毛ごと愛します』


「……お妙さんが俺を丸ごと愛してくれるって…認めてくれたから」

「そんなの、私なんかよりずっと前から土方さんがしてきた事じゃない。ちょっと考えれば直ぐ分かるわ」


とにかくあなたは私の事は好きじゃないの、だからこれ以上付きまとうなストーカーゴリラ、あ、土方さんのお見舞い後で伺わせてもらいますね、じゃあ、死ね、等々所々に辛辣な言葉を混ぜつつお妙さんは俺に背を向けた。


俺がトシを好き?確かにあいつは俺を認めてくれるが、弟分みたいなもんだ。でもこの感情は?分かんねぇ。どうしよう、頭が爆発しそう。そんな時、総悟からトシの目が覚めたと電話が来た。あぁ、よかった、トシの顔見たら何か分かるかもしれない。よし、走ろう病院まで。何かがどんどん透過していく気がした。











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