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10、あなたの一番にして下さい
※銀土 原作




俺は数十年間生きてきたが、今の今まで完全なる女好きだった。まさかそうじゃなくなる時がくるなんて夢にも思わないかった。でもそうなったのは仕方ないっちゃ仕方ないのかもしれない。



「おっ、多串君じゃん」

「多串じゃねぇって何回言やぁ分かんだよ…」

「今日も相変わらず瞳孔開いてんね」



その瞳孔開いた危なかっしい瞳すら美しく思えるから重症だ。男にこんな気持ちを抱くだなんて間違ってる。変だ。でも土方君ならそれでも構わない気がしちまうから大概いかれてる。



土方君は絶対にホモが嫌いだ。何でかっつーとそういう人間だからだ。自分の常識の範囲内の事しか認められなくて、他は全部ダメ。俺みたいな半端な存在はもっとダメ。

だったら中途半端から逃げるしかない。こんな不毛な片思いもきっぱりすっぱり終わらせちゃおう。うん、そーしよう。フられても案外あっさり忘れられて、なーんだ、俺の気持ちなんてそんなもんか、まあよかったこれで晴れて再び女好き復活だ、ってなるかもしれない。



「ね、土方君」

「…んだようっとうしい」

「話があるんですケド」

「今ここで話せ」

「いや…土方君がみんなに聞かれてもいいんならいーよ」

「…何だ、聞かれたらまずい話なのか」

「うーん…まあ、ちょっとね」


変な奴だな、と土方君は呟いて路地裏まで付いてきてくれた。誰も通る事のない、静かな静かな道。



「えっーと。その……ね?」

「…さっさと言え」

「ひ…土方君さぁ、銀さんを土方君の一番にしてみませんか?」


「…は?」

「だから…つまりその…」


「お前を俺の一番に?」



何でだ?と土方君は小首を傾げた。あぁ、そこから理解出来ないのか。男から告白されるという現実が分からないのだ。俺の口から出る言葉と愛の告白は結び付かない。土方君は決して鈍感ではない筈だ。きっとあの端整な顔立ちでさぞや色々な女達にモテたろうから。だから女に『あなたの一番にして、』と言われたらその真意が理解出来るだろう。



俺は男だから。男だから土方君にそんな事を言う筈がない、って思ってんだよね。だから俺の言葉を惚けた顔してスルーできるんだ。


あぁ、脱力感、虚無感虚脱感。


土方君の顔を見る事すら出来ない。未だに意味の分からないらしい土方。





俺性別間違えて生まれてきたかもしんねぇ。そう思う程土方君が好きなのだと知らされた気がした。忘れるなんて無理だ。無理だけど忘れないともっと辛くて苦しい。




どっちを選べば楽に死ねるのか。それはやっぱり『忘れない』だと思う。その為にも分かりやすく俺の気持ちを伝えよう。



「つまりね、俺はお前の事が好きで。そんでもってお前の一番にして欲しいって訳。どう?わかった?」

「……………正気か?」

「勿論」



土方君は俯くと、からかってんじゃねぇよ、と小さく呟いた。冗談じゃない。からかうだなんて軽い気持ちだったらこんなに手が震えたりなんか、しない。


「土方君、俺は本気だよ。…気持ち悪いって思うかもしれねぇけど、これだけは伝えたかった。忘れちまっても構わないけどさ、ほんのちょっとくらいは覚えててくれると嬉しいな」


じゃ、それだけ、と土方君に背を向けた。土方君の嘘だろ、って溜め息が聞こえる。嘘じゃない。好きで好きで好きで好きで仕様がないから素直に気持ち言ったんだ。あぁ、やっぱり土方君を忘れるなんて不可能だ。これからフられようが無視されようが構わない。言ってよかった。うん。言ってよかったよ。


よくやった坂田銀時。


だから泣きやめ。涙なんて似合わない。泣くのはフられてからにとっておこう。








あきゅろす。
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