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消毒
※山土 原作



 辺りに副長は見当たらな
 かった。代わりに見える
 のは攘夷浪士供の体だけ
 で。おかしいな、ここに
 いると副長は言ったのに
 。暫くきょろきょろと周
 囲を探していると、木の
 下に寄り掛かる一つの影
 があった。



 「副長」

 「………悪ぃな」

 「……!その怪我…」


 予想以上に副長は傷を負
 っていた。右腕からは大
 量出血、頬にも無数の切
 り傷がついており、顔色
 が大分悪い。電話ではそ
 んな事言わなかったじゃ
 ないか。ただ、道すがら
 に攘夷浪士供に襲われた
 、身柄を確保したからパ
 トカー持ってこい、って
 、それだけ。



 「パトカーは」

 「後から来ますよ」



 俺は先に来て状況確認し
 に来たんです、と声を押
 さえて説明をした。本当
 は声を荒げそうな自分が
 いる。またこんなに怪我
 をして、無理をした副長
 に対しての無意味な怒り
 が込み上げてくるのを止
 める術はないのだ。奇襲
 を受けたのなら逃げれば
 いい。あんたならそれく
 らい出来る筈。わざわざ
 相手に自分を斬らせる機
 会を作る必要なんてない
 のだ。なのにあんたは自
 分の身より浪人の身柄確
 保が大事なようで。全く
 何時死んでもおかしくな
 い、そう感じさせられ、
 俺は毎回鳥肌が立つ。



 「もう…あんま無理せん
 で下さいよ、副長」

 「無理なんざしてねぇ。
 馬鹿言うな」

 「充分してるでしょうに
 ……。俺ァあんたが心配
 なんですよ」

 「…俺は真選組副長だ」



 
 お前の恋人である前に、
 と副長は呟いた。そんな
 事分かっている。でも心
 配なモンは心配なんだよ
 。しなくていい無茶をし
 て傷ついてほしくないん
 だ。それは決して我儘で
 はない気がする。少なく
 とも正当な感情であるこ
 とに間違いはないだろう
 。



 「…手、貸して下さい」

 「……おう」

 「軽く応急処置しちゃい
 ますんで」

 

 そう言って副長の手を取
 り、傷口の周りの既に衣
 服としての役割をさほど
 果たしていないシャツを
 破った。生々しく光る血
 が姿を見せ、俺はそれに
 嫌悪感しか感じなかった
 。副長の体からこんなも
 んが出てるだなんて、知
 りたくもなかった。



 「………んっ……」



 不意に妙な衝動が俺を襲
 った。副長の傷口を舐め
 てみたのだ。口の中に広
 がる鉄臭い匂いは何だか
 懐かしい。



 「何やってんだよ山崎」

 「舐めてるんです」

 「痛ぇよ馬鹿野郎」

 「消毒なんで、」

 「……ッ何言ってんだ」



 だってこうでもしなきゃ
 あんたのその傷口は塞が
 らないじゃないか。皮膚
 が再生したってあんたの
 内側についた傷は消えな
 い。生涯副長の中に残っ
 て見えない痛みを落とし
 続けるのだ。その苦しみ
 を少しでも減らしたくて
 、俺は副長の傷口に口つ
 けた。この傷が全く汚れ
 てなくて、誇るべきもの
 なのだと思ってほしかっ
 た。そんなのは気休めか
 もしれないが、俺くらい
 は副長の傷を正当化した
 かったのだ。



 「ちょ、おい山崎」

 「黙って下さい」

 「…くすぐってぇよ」



 頬の切り傷も舐めた。飼
 い主の頬を舐める犬のよ
 うだと自分で思った。



 「よし、消毒完了」

 「…馬鹿なんじゃねえの
 お前、本当」



 そう零した副長の顔は怒
 っていなかったから、こ
 れで少しはよかったのか
 もしれない。口の中が苦
 くて哀しい味になったけ
 ど、副長にキスをしたら
 その味も消えた。その代
 わり副長には鉄くさ、と
 渋い顔をされたけど。





消毒
(やさしく労って)







あきゅろす。
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