相合い傘
※高→←土 学生パラレル
雨が降ろうが剣道部の練習はお構いなしにある。汗臭い剣道場を後にして着替えを済ませ、下駄箱へ向かい傘立ての前に立った。
「……やられた」
傘がない。雨の日は傘の盗難が多いのだ。俺が持ってきたのはビニール傘。傘を盗んで帰ろうと企む奴が盗むのは大抵ビニール傘だ。くそ、天気予報ちゃんと見てから学校来いよ馬鹿野郎。夕方から雨ってお天気お姉さんが言ってただろうに。しかしいくら文句をつけた所で俺のビニール傘は戻ってこない。よし、と気合いをいれ直し、鞄を屋根にしてまあまあの雨足の中へつっ込もうとした。
「おい」
……つっ込もうとしたが、不意に声をかけられ立ち止まる。
「…高杉、何でこんな時間までいんだよお前」
「何でもいいだろ。それよりてめぇ、その」
「…んだよ」
「これ、」
控え目に差し出されたのは折り畳み傘だった。高杉に似合わない、明るいブルー。
「これ、が何」
「使えよ」
「え、でも高杉が」
「俺のはある」
それは万斎のだから、と言うと高杉はそそくさと再び校舎の中に消えた。
「……分かりやす」
仕方ねぇな、と小さく溜め息をついて俺は傘を開いた。曇った空よりも鮮やかな青が視界を奪う。
─────…………
土方に傘を渡してから数十分。そろそろいいか、など考え再び下駄箱に戻った。すげぇ雨だな。今日雨降るなんて聞いてねぇぞ馬鹿野郎。万斎から折り畳み傘を奪ったはいいが土方に貸しちまったし。まあ俺が貸したかったから別に構わねぇ。土方が濡れ鼠になるくらいなら俺がなる。
「よーし」
先程の土方と同じように気合いを入れ、雨の中を走り出した。冷てぇ。雨粒が制服に染み込んで体を重くした。土方は無事に家に帰りついただろうか。
「おい」
校門を出ると、声がした。聞こえるはずのない声が。
「………何でいんだてめぇは」
「何でって、」
一緒に帰ろうと思って、と柱の前でしゃがんでいた土方はゆっくりと腰をあげた。
「どーせてめぇは傘持ってねぇだろうと思って」
「…持ってるっつったろ」
「分かりやすいんだよてめぇは」
嘘って丸分かりだっつの、と土方は笑った。
「この傘は返す」
「はぁ?」
「で、お前の傘にいれろ」
「え」
「いいだろ?」
「あ、あぁ」
よし、帰ろうぜ、と土方は俺に催促した。傘の柄をぎゅ、と握る。ふいに笑みが零れた。もう一度傘の柄に力を入れ、緩く息を吐き出す。
「ありがとよ」
相合い傘
(雨の日のたのしみ)
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