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ずるいのは*
※銀→←土 原作





隣りを見ると土方はまだ寝息を立てて布団に横たわっていた。そろそろ起こさなければ、新八と神楽がここに帰って来てしまう。でも、あと少しだけ。そう思い土方を揺すろうとした手を止めた。



言い出したのはどちらからでもない。只、土方は寂しかったのだと思う。大切な人の隣りに立つ為に己を捨て、常に隊の事を考え生きるあいつは独りだった。甘え方など忘れてしまったのだろう。想っていた女を幸せにすることすら叶わない道を選んだのはあいつだから、と言えばそれまでだけど、明らかにその一言では片付かない程に土方は全てを背負っていた。いつしか愛する気持ちも無くしただひたすらに走ってきたあいつの孤独が俺にはありありと見える。だからこそ俺は何も言わずにあいつを抱いてしまったのだ。否、抱きたかったのは俺なのだけど。


土方がそれで救われるのだったら、所謂セフレでも構わない。何も考えられないくらいに気持ち良くしてやって、一瞬でいいから背負ってるもの全てを俺に預けてほしいのだ。そしてその間、俺だけを見てほしい。




「………はよ」




土方がうっすら目を開いた。カーテンから漏れる光が眩しい様で顔を手で覆った。この時間がとてつもなく虚しい。本当はおはようのキスとか、抱き締めたりとか馬鹿みたいに甘ったるいことを土方にしたいのに、俺にそれをすることは許されない。俺達は恋人同士なんかじゃないから。




「何見てんだよ」

「…べっつにー」

「変な奴だな」



土方はそう言うと再び目を閉じた。真っ黒な髪の毛を撫でたい。不意に差し延べてしまった手はただ宙を掻くばかりで、置く場所はなかった。その手を引っ込める代わりにまた眠りに落ちた土方の顔に小さく言葉をぶつける。



「なんで俺なんだよ」




俺は、お前が望むなら利用されたって気にしない。でも土方が俺を選ばなきゃならなかった理由はない筈だ。なあ、なんで?土方は綺麗だから、男色の野郎どもの気を引こうとすりゃいくらでも引けただろう?なのになんでそっちの気なんて全くない俺を誘ったの?(まあ結果的にはそっちの気出てきちゃった訳だけど、土方だけにね)それだけが引っ掛かっていて、上手く飲み込めない。でもそれを土方に聞く勇気はないから、せめて、今くらいは。




「…なんでだよ……」



「……聞くなよそんなこと」

「土方……起きてたの」

「起きてたよっ……」



そう言って土方は何故か泣きそうに顔を歪めた。その表情を俺は見た事がなくて、どうすればいいか分からない。



「なあ、なんで、俺なの」

「……俺は、どうでもいい奴に俺の体を預けたりしない。どうでもいい奴に抱かれたりなんかしねぇよ」

「……うん」

「たった一時だろうが、頂けねぇ奴に触られるだなんて真っ平御免だ。だからって真選組の奴等に触らせる訳にもいかねぇ。あいつらは俺の為に生きてもらっちゃ困るんだ」

「…だから、なに」

「……お前は、そのどちらでもねぇ」

「……それだけの理由?」

「ちげぇよ…っ、お前は俺を、何も考えないでみてくれる。全部忘れさせてくれる。真選組とは別の場所を作ってくれる気がしたんだ…ただ、それを言葉にすんのはあまりにも理不尽だと思ったから」

「何も言わずに抱かれたの?」

「………あぁ」



悪かったな、と土方は呟いた。


「呆れただろ、帰る」

「じゃあ俺の場所に土方は来てくれんの?」

「え?」

「俺が真選組と別の、特別な場所作ったらてめぇはそこに来てくれんのか?」

「……今更そんなこと」

「今更じゃねぇよ。ただ、もうこんな不毛な関係は終わりにしよーぜ」

「…言われなくてもそのつもりだ」

「で、もう一回仕切り直し」

「仕切り直し?」




もうやるしかない。土方はやっぱり寂しいんだ。自分だけの場所が欲しくて、守られたくて堪らないのだ。それを叶えてやりたい。どうしようもなく好きだから、それ以外に理由なんて要らない。


「土方、俺は、ずっとてめぇの拠り所になりたかった」

「……うん」

「お前が望むならそこに気持ちがなくても抱いてやりたかった」

「……」

「でもそれは間違ってたみてぇだ」

「…間違いって」

「お前が望んでからじゃなくて、自分から行くべきだった。てめぇが寂しいって言わなきゃいけなくなる前に、俺が気付いてやるべきだったんだ」

「別に寂しくなんか…!」

「寂しいだろ?土方。お前は人前では常に真選組副長で、気を抜ける時なんてなくて、守ってやらなきゃならない」

「……」

「でもてめぇだって疲れたり、甘えたりしてぇよな」

「別に」

「もう意地張んなくていいんだよ」


俺にだけでいいから、甘えてみろよ、と言ったところで言葉が詰まった。涙が溢れて止まらなかった。言葉がぽろぽろ零れて、上手く話せない。


「なあ、甘えてくれよ……!泣いちまう程てめぇの事好きな奴がここにいるんだよ」

「…………馬鹿かよ、……てめー」

「馬鹿で構わねぇ、土方が笑ってくれんなら」

「…んなこと言うなよ」



我慢できなくなるじゃねぇか、と土方は弱々しげに呟いた。これでいい。土方はここで休めばいい。片意地張らなくて済む場所を俺が作ってやるんだ。何でこんな簡単なことに気付かなかったのだろう。言葉にするのが怖くて、現実になるのが恐ろしくて、逃げてばかりだった。でももっと怖いのは土方の息が詰まって身動き取れなくなっちまうことだってようやく気付いた。



「……すきだよ、土方」






「………馬鹿野郎…言うなよ、言ったら駄目だろ…俺は…っ、てめぇを利用してただけなのに…」

「構わねぇよ、土方のことがすきだから、たくさん甘えて構わねぇ」




「……くそっ」




土方が俺の胸板に抱き付いてきた。一生離れねぇからな、覚悟しろよ、だとさ。そんな、願ってもない言葉。覚悟すんのはてめぇの方だよバカヤロー。てめぇをたくさん甘やかして可愛がって砂糖漬けみたいにしてやるよ。そしたらてめぇは二度と離れないだろう?あぁなんて俺はずるいんだろう。土方に足りない愛情をたっぷり注げばてめぇは依存せざるを得なくなる。それを分かってるんだ。でも、それはそれで、土方への愛の証っつーことで。




ずるいのは
(足りないものはなに?)








あきゅろす。
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