予行練習
※沖土←神 原作
口に出すのはすごく楽。あいつ以外には。だって家族愛だから。
「ねー銀ちゃーん」
「んー」
「私銀ちゃんの事好きアルヨー」
「わーったからでけぇ声出すな頭に響くんだよコノヤロー」
二日酔いの銀ちゃんにはあっさり流されてしまった。でも、それでいい。それ程重いモノじゃないし。本心は本心だけどまたあいつとは別の感情。
「新八ぃ」
「何ですか神楽ちゃん」
「私新八の事好きヨー」
「えっ………!?」
「何マジに受け取ってるアルか気持ち悪い暫く話しかけないで駄メガネ」
新八はダメ。童貞と書いて餓鬼と読むから好きという言葉に免疫がない。まあ仕方がないかも。私はそんなことを言うキャラじゃないから。
「あ、ジミー」
「何すか会うなりジミーって…」
「私ジミーの事好きヨ」
「まじすか、じゃあ一緒にミントンやりましょうよ!」
丁度相手探してたんで、とジミーはにっこり笑って言った。好き、という言葉にさして重みを感じていないようだ。仕方ないから行ってあげるアル、と返事をしたが、本当は嬉しかった。もしかしたら、仕事をサボってミントンをするジミーを怒りにあいつが来るかもしれないからだ。
ジミーは強かった。流石地味にミントンを続けているだけあって、どんな際どい球も捕る。私は負けず嫌いだからどんどん白熱していって、大っ嫌いなサド野郎が近付いてきてる事には気付けなかった。
「山崎ィ、あっちで土方さんがおめェの事探してたぜィ」
「げっまじすか」
「というかもうこっち向かってる」
俺がチクッといたから、と涼しげな顔でサドはジミーに告げた。
「にっ逃げなきゃ!!じゃあね、チャイナさん!また今度やろう!!」
ジミーは信じられない速さで何処かへ消えた。地味だから見えなくなっただけかもしれないけど。そして残念なことに公園には私とサドだけが残されてしまって。
「嘘だよーん」
サドはジミーが消えていった方向を見て呟いた。人をおちょくるあの言動、やっぱり私はあいつが嫌いだ。
「…ジミーは私とミントンしてたアル」
「そりゃあ邪魔して悪かったねィ」
「死んで償えヨ」
「何だィてめぇ、ザキの事そんなに好きだったのかィ」
「………私は沖田が好きヨ」
これは只の予行練習。本物の気持ちはあいつの為に取ってある。一生取り出す事もないだろうけど。
「………言う相手、間違ってんじゃないかィ」
そう言って、沖田はフッと笑った。嫌な笑いだった。見下された気がした。これは予行練習なのに。嫌だ、どうしよう。何でこんなに泣きそうなの。
「俺ァ土方さんが好きですぜィ」
「……うるさい!」
「おめぇもだろ?」
「うるさいヨ!」
「可哀相に、あの人も俺の事好きなんだってよ」
「うるさいサド!!」
「何度でも言ってやりまさァ。あの人はねぇ…」
「黙れサド!」
「そうだちったァ黙れサド」
気付いたらあいつが立っていた。恥ずかしくて名前も呼べない、あいつが。
「土方さん…何でいるんですかィ?」
「てめぇを探しにきたに決まってんだろ」
サボってんじゃねぇよ、とあいつはサドの頭をはたいた。羨ましい、と思ったのは隠せない。
「…………今の、聞こえてたアルか?」
「今のって」
「…サドとの、喧嘩…」
「内容は、特に」
只、近付いたらチャイナがうるせぇうるせぇ騒いでるから総悟がうるせぇのかな、と思って、と土方は説明した。安心。よかった、聞こえなかったみたい。あんな恥ずかしい会話聞かれるくらいだったら酢こんぶ一ヵ月抜いた方がマシだ。
「アレ、チャイナてめぇ土方さんに何か言いたい事…」
「黙るネサド!!…覚えてろよ!」
そう言い残して私は走りさってしまった。
「なんでィ、つまんねぇの」
「…何なんだ一体」
予行練習したって、本番は迎えられない。サドがいる限り、あいつの目は私を捉えない。だから予行練習なんて意味ないの。本当はそれくらい分かってるよ、分かってるけど。銀ちゃんみたいに流されても構わない、新八みたいに真剣に返してもらえたらすごく嬉しい、ジミーみたいに優しく無視されても全然いいから、だから、お願い、沖田みたいに笑ったりしないで。私の『本当』を無下にしないで。頭の中でどんなに考えても分からないんだ。あいつにもしも気持ちを伝えたらどんな顔をするのか。さっぱり分かんない。だから、私は予行練習をする。頭の中で何度も何度も繰り返し。家族のように好きな奴等に何度も何度も。
「…………好きヨ、トッシー」
傘の影で一人小さく呟いた。これが、本番かもしれない。もう二度とあいつの名前を口に出す事すらできない気がして仕様がない。
「……好き、ヨ」
土方、十四郎。
予行練習(さあ、練習練習!)
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