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ご乱心
※銀土 原作
「え、嘘、何、誰、銀さんがかっこいいからっていきなり抱き付くのは……」




 背中に衝撃を感じた
 。ぼけーっと散歩を
 していた最中だった
 だけに地味に驚く。
 背後からお腹に巻き
 付く腕は、真選組の
 隊服を纏っていた。


「…土方?」
「こっち向くな」
「土方か……どうしたの?」
「聞くな」
「って言われても…」
「いいから黙ってろ」
「んな理不尽な…」



 土方は震えていた。
 こんなに小さくて、
 弱々しいこいつは初
 めてだ。俺は不謹慎
 にもドキドキしてい
 る。男の庇護欲とで
 もいうのだろうか。
 守ってやらなければ
 、俺が話を聞いてや
 らなければ、と強く
 感じた。



「もう喋ってもいい?」
「よくねぇ」
「…俺には話せない?」
「……」
「頼りない?」
「…頼りねぇと思ってたらてめぇのとこなんざ来ねぇよ」
「だったら話してよ」




 ね、土方、と俺は優
 しい声を出した。




「…もう嫌なんだ」
「何が?」
「わかんね…でも何か…急に寂しくなった」
「寂しい?」
「…置いてくなよ」
「え?」
「置いてかないでくれよ坂田」
「は?置いてくって…俺?」
「嫌だ。もう歩けない」
「歩けないって」
「これ以上何があるってんだ。無理したって仕方ないだろ」
「どうしたんだよ土方!」



 つい声を荒げてしま
 った。だって土方が
 変だったから。何言
 ってるか全く分から
 ない。支離滅裂だっ
 た。何時もは冷静で
 強がってて俺が頼っ
 てばっかなのに。ど
 うしたの土方?




「え…あ……ごめん」
「いや…別に大丈夫だけどよ、本当どうしたんだ?」
「…どうしたんだろうな」




 お腹に回っていた手
 が不意に緩んだ。土
 方が消えてしまうよ
 うな気がして、その
 手をがっしり掴んだ
 のは間違いじゃなか
 ったと思う。



「土方!?」



 土方はふつりと糸が
 切れたかのように崩
 れ落ちた。もう俺は
 何が何だか分からな
 くて。いきなり抱き
 付いてきて可愛いな
 コノヤロー、とか思
 ってたら意味不明な
 事言い始めるし挙句
 の果てには気絶です
 かそーですかとりあ
 えずそーだよあれ…



「救急車ァァアァ!」



 俺がそう叫ぶと往来
 で俺達を物珍しそう
 に眺めていた奴等が
 百十九番をしてくれ
 た。まあそりゃそう
 だ。道中で男二人が
 抱き合ってたら気に
 なるだろうな。って
 俺は何でこんなに冷
 静なんだ?土方が倒
 れたのに。あぁ、頭
 がきっと受け入れな
 いんだ。あの気丈な
 土方が倒れたという
 事実を。だって有り
 得ないじゃん。




「………」
「お、目ぇ覚めたか?」




 数時間後、土方は病
 室のベッドで目を覚
 ました。ちょっと前
 までゴリラが室内に
 いたが、これ以上隊
 務を抜ける訳にはい
 かない、とか珍しく
 局長らしい事を言い
 、そそくさと病室を
 出ていった。変なの
 。こういう時って死
 ぬ程土方の心配して
 気持ち悪いくらい土
 方の側から離れない
 のかと思ってた。変
 なの。



「ちょっといいですか、旦那」



 声がした方を見ると
 、山崎がドアからこ
 ちらに向けて手をち
 ょいちょい、と動か
 していた。その仕草
 が妙にむかついたが
 大人しくそいつの元
 へ向かう。



「旦那、今日はありがとうございました」
「別に救急車呼んだだけだし」
「…今日の副長、何か変じゃありませんでした?」
「うん、すげー変だった」
「ですよね。実を言うとですね、今日副長と局長、喧嘩しちゃったんですよ」
「喧嘩ァ?」
「はい。俺にはきっかけがよく分からないんすけど、結構もめちゃったみたいで、仲直りしないまま副長は巡回に出ちゃったんです」
「…それがどーしたの」
「昔から副長は、局長と喧嘩すると変になるんです。弱音吐いたり、熱出したり、行方不明になったり…今日もそんな感じでまぁ、倒れちまったようなんです」



 成る程、ゴリラね、
 全部ゴリラの所為な
 訳ね。ふーんあっそ
 う。



「まぁそういう事なんで、あんま心配せんで下さい」
「おう」
「…局長と副長が仲直りしてくんないと困るなァ」
「…仕様がねぇからそれとなく言っといてやるよ」


 ありがとうございま
 す!!と言い残し、
 山崎は局長を探しに
 言った。俺は病室に
 戻り、今だに口を開
 かない土方のベッド
 の横の椅子に徐に腰
 掛けた。



「…ゴリラと喧嘩したんだって?」



 すると土方は、泣き
 そうに面をくしゃく
 しゃにしてゆっくり
 とこちらを向いた。


「…俺が悪いのか?」
「さぁ…原因が分かんねぇから何とも」
「だって有り得ねぇじゃねぇか。どんなにキャバ嬢に理不尽に殴られたって怒んねぇし、総悟がどんなに仕事サボったって笑って見逃してやんのに…何で俺は」



 そこで土方は言葉を
 詰まらせた。まるで
 子供のようだ。折角
 テストで良い点取っ
 たのに母親に褒めて
 もらえなかった子供
 。



「折角一人で行ってきっちり片つけてきたのに……」


 話が読めてきた。察
 する所、土方は一人
 で敵地に乗り込み見
 事敵を鎮圧してきた
 が、それをゴリラに
 報告した所怒鳴りつ
 けられたっ、て感じ
 かな。




「近藤はなァ、土方が心配なんだよ。てめぇがどんなに強くても、刀振り回してる限りやっぱり死っつーのは常に背後に立ってんだ。そいつは仲間がいれば遠くに消えるけど、一人の時はぴったり真後ろにくっついてやがる。土方がそいつに飲み込まれやしねぇか、って近藤はどきどきしてんだきっと」
「…でも俺は、不必要な場面で隊の奴等を駆り出したりしたくねぇんだ…」
「お前だって真選組の一員だろ?てめぇが働いてるのに何で他の隊員は働かねぇんだ。おかしいじゃねぇか」
「……」
「要するにな、あんまり一人で抱え込むなっつーこった」


 分かった、と土方は
 少々不満げながらも
 呟いた。後で近藤さ
 んに謝ってくる、と
 も微笑んだ。その顔
 は俺が見た事もない
 くらい柔らかくて、
 素直だった。こんな
 顔させてやんのは俺
 には一生無理なんだ
 ろうな。何だかなァ
 、やっぱ敵わねぇや
 、と一人小さく溜め
 息をつく。だけど俺
 の背中にはまだ淡く
 土方の体温が残って
 いた。生温い、生き
 ている感触。それが
 俺の中にちりちりと
 燻っている。きっと
 この体温を知ってい
 て、この体温を感じ
 られるのは俺だけな
 んだろう。そうであ
 ってほしい、と半ば
 祈る様な心持ちで俺
 はもう一度深く溜め
 息をつくのだった。





ご乱心
(嫌わないで、俺の事)








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