正直者
※沖→←土 原作
今日は俺の為の日だ。つまり、告白する勇気のない、そして、告白する意味のない野郎の為の日って訳。もし今日告白したとしても、『今日は何の日?』と相手に問えば、訝しげな顔がやられた、という何とも曖昧な表情に変わる。俺はホモと呼ばれる事はなく、只の嘘つきで終わる事ができるのだ。どんなに自分が本気で、心の底から緊張していたとしても。
「土方さーん」
「んだよ」
「今暇ですかィ」
「この状況が暇に見えるか」
「はい」
「……さっさと仕事に戻れ」
書類の山に埋もれた副長室に土方さんはいた。体に悪い生活をしているのが手にとるように見える。煙草の煙で薄汚れた空気、そこら中に散らばる空のマヨネーズ。もう桜も満開に近いというのに何て野暮な人なんだろうか。まあ土方さんの仕事を作っているのは紛れもなく俺なんだけど。
「土方さん」
「だから何なんだよ…」
「ちょっと真剣に聞いて下せェよ」
「わかったわかった分かったからさっさと言え」
「俺ァね」
「うん」
「実はねィ」
「うん」
「あんたの事が」
「うん」
「好きなんでさァ」
「…うん」
「勿論、恋愛感情で」
「うん」
「だからあんたさえよけりゃあ」
「うん」
「付き合ってほしいんでさァ」
「うん」
「……聞いてました?」
「うん」
「じゃあ、返事は?」
「だからうん、って言ったろーが」
「言いましたけど…それが?」
「それが?じゃねーだろ。だからうん、って」
「……え?」
「あー物分かりの悪ィ奴だな、いいっつってんだよ」
「え……本気で言ってんですかィ」
「あぁ」
「……今日は何の日ですかィ」
「何の日って……四月一日だろ」
「……まあそうなんですが、それだけ?」
「はァ?てめェ、四月一日は四月一日以外の何モンでもねぇだろ」
「え、まさか知らないんですかィ」
「何を」
「エープリルフール」
「知ってる」
「……じゃああんたの返事も嘘なんですかィ」
「………知ってるか、総悟」
「…何を」
「エープリルフールは午前中だけなんだってよ」
「……え」
「四月一日の午前中だけなら、嘘ついてもいいんだ。でも午後はもうエープリルフールじゃねぇんだぞ」
「…………」
「今、何時だ?」
「……夕方」
「嘘ついたら、駄目だぞ?」
そう言って土方さんはにやりと笑った。まるで、俺がこんな馬鹿みたいな保険をかけて告白をする事なんかお見通しだったみたいに。エープリルフールだからという逃げ道を作った俺を嘲笑うかのように。
「だからさっき言った事全部、本当だよな?」
「え」
「……俺が好き、とか、……その…付き合ってほしい、とか」
「………はい」
認めざるを得なかった。だって土方さんの返事は既に分かっているようなもんだから。エープリルフールは午前中まで、って知っていた土方さんの返事は『うん』だった訳だし。普段から土方さんは嘘をつかない。
「愛してますぜィ、土方さん」
「…エープリルフールはとっくに終わってんぞ」
「さっきも聞きやした」
「……恥ずかしい奴」
土方さんは相変わらず書類を見つめていて始終こちらを向かなかったけど、きっと顔は真っ赤なんだろうな、と思った。つーか俺、只の正直者だよな?本当の事言って、嘘に見せようとしたのに失敗して。本当、格好悪い。ま、格好悪さの結果がこれなら構わないけど。
俺のエイプリルフールは不発に終わった。
正直者(嘘つきになりきれなかった四月馬鹿)
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