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馬鹿げたルール
※沖→土 原作




「どこ行くんですかィ」



真夜中、隊服に身を包んだ土方さんが屯所の門を潜った。俺はというと門の横に寄り掛かって土方さんを待っていたのだ。土方さんが夜中に出て行くという確証があったから。



「…煙草買い行くだけだ。餓鬼はさっさと寝ろ」

「煙草なら俺があげやすぜィ」

「…てめぇから貰った煙草なんざ吸えるか」

「俺ァ知ってますよ。あんたが誰にも内緒で麻薬犯罪組織摘発しよーとしてんの」

「…何の話だ」

「一番隊の奴の兄貴がその組織に属してんのも知ってやす」

「……だから何だよ」

「俺も行きまさァ」

「駄目だ」

「何でですかィ。絶対に他言したりなんかしねぇし、一人より二人のが仕事も確実じゃねぇですか」

「そんな事分かってる」



でも、駄目だ、と土方さんは冷たく呟いた。拳に力が入る。何故そう何時も一人で頑張るんだ。一人で全部背負って片付けようとするんだ。頼ってくれりゃいいじゃねぇですか。俺はそんなに頼りないか?そりゃ確かに普段は仕事しねぇかもしんねぇ。でも大事な場面ではきちんとこなしてきたつもりだ。土方さんにそれが伝わってないとは思えない。だったら何故、土方さんは俺を信用してくれないんだ。



「…また姉上の旦那の時みたいに一人でやっつけるつもりですかィ?結局あん時だって俺らが駆け付けなかったらあんた死んでたでしょう!?どうしてそんなに分からず屋なんですかィ!?」

「……黙れ。分からず屋でも構わねぇ、とにかくお前は来なくていい」

「どうせまたかっこつけようとしてんだろィ?粛清の時に奴の兄貴を殺っちまったとして、そん時奴に恨まれんのは俺だけでいい、とか何とか思ってんだろィ?分かってんだよそんくれぇ!馬鹿にすんのもいい加減に…」

「うっせぇ!!餓鬼はすっこんでろ!……分かったような口聞くんじゃねぇ」




辺りはしん、としていた。人っ子一人通らない。ただ、道端に俺達の声が響いている。


風が木々を激しく揺らした。



「………この後に及んでまだ餓鬼扱いですかィ……」

「……てめぇは何時まで経っても餓鬼に変わりはねぇ。責任の取れねぇ、近藤さんの庇護の元にいる餓鬼なんだよ」





ショックだった。言葉にしてはっきりと土方さんにたたき付けられた現実はあまりに残酷だ。所詮俺はまだ餓鬼で、土方さんとは別の微温湯の中にいるらしい。




「……俺ァね、あんたと近藤さんに追いつきたくて追いつきたくて仕様がなかった。今だってそうだ。同じように隣りを歩きてぇんでさァ。でも俺には後ろからあんたらの背中にしがみつく事しかできねぇ。…そんくれぇは分かってんでさァ」

「………そんな」

「あんたが言いたいのはそういう事だろィ?」

「……そんなんじゃねぇ。只俺はてめぇに汚ぇトコ見せたくねぇだけだ」

「汚ぇも何も、俺達はそういう奴等を取締る為にいるんじゃねぇんですかィ?」

「そうじゃねぇ!!……そうじゃねぇよ…」

「だったら何なんですかィ!?こんな……こんな風に問い詰めたり駄々こねたりすんのが餓鬼くせぇってのは分かってやす…でもやっぱ、…気になるんでさァ」



あんたの事が、好きだから、と言った。静かな夜道に俺の声は染み入っていく。これが初めての告白ではない。もう幾度も繰り返してきた事だ。その度土方さんは大人の狡さで曖昧に暈す。俺があんたを諦めきれない程度にやんわり話を終わらせるのだ。何て狡いんだろう。でもその狡さは俺がもっとも欲しいものでもあった。



「……俺はてめぇが可愛くて仕方ねぇんだ。小っせぇ頃からの付き合いだ、やっぱりてめぇは俺にとって可愛い弟だよ。……自分の感情を吐き違えるな総悟」

「………吐き違えてなんか」

「もう分かったろ。とにかく、帰れ。………てめぇに仲間内の汚ぇ姿見せる訳にはいかねぇ」

「……?仲間内……?」

「あぁ。組織と通じてんのは奴の兄貴だけじゃねぇ、奴もだよ。真選組の中にクスリ流そうとしてんだ」

「だったら尚更……!」

「いいんだ総悟。俺が朝になっても帰ってこなかったらそん時来てくれ。お前が待ってるってだけで心強ぇから」

「………んな事言われたら行けねぇじゃないですかィ…」
「大丈夫だ。組織っつっても大してでかくねぇ。少人数の立ち上がったばっかのモンだ。悪かったな、余計な心配かけて」

「…………さっさと帰ってきてくだせぇよ」

「あぁ、約束だ」




そう言って土方さんは俺のおでこにこつんと拳を当て、颯爽と歩いていった。煙草の煙を燻らせて。



俺は丸め込まれただけなのかもしれない。今土方さんを一人で行かせた事によってあの人は今日死んじまうかもしれない。それでも、あれ以上食い下がる事は出来なかった。あの人の意志を曲げる程の力は俺は持ち合わせていないし、何よりあの人を疑うという行為を続けるのが嫌だったからだ。一人で行かせないという事は、土方さんにそれ相応の力量がないと認めるようなもんだ。一人で行かせる事がどれ程危険か分かっていながら行かせてしまうだなんて何たる体たらくだろう。嫌悪感が拭い去れなかった。



難しいな、大人と子供の間柄って。子供は餓鬼と言われても仕方がないくらい餓鬼でいなきゃならないし、大人は餓鬼と言える程大人でいなきゃならない。でも子供は餓鬼と言われたら怒らなきゃならないし大人は餓鬼と言う事に罪悪感を覚えなきゃならない。馬鹿げたルールだ。でもこのルールがなけりゃとっくに俺は土方さんにフられてんだろうな。そう思えばこの馬鹿げたルールに従わなきゃなんないのも仕方ない。


あぁ、早く大人になりてぇや。





馬鹿げたルール
(餓鬼は餓鬼らしく大人の言う事聞いてりゃいいのに)







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