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送辞と答辞
※銀→←土 学パラ




今日は先輩の卒業式でした。いつもの事ながら制服を崩していて、あの派手な銀髪も染めないまま、先輩は卒業していきました。最後まで何等変わりのない後ろ姿が痛いくらいに眩しかったです。




涙を流す事はありませんでした。先輩はいつものへらへらした笑顔で答辞を読みました。送辞を読んだのは俺です。一緒に生徒会をやった仲間として、感謝の気持ちを込めました。嘘です。感謝より、今まで散々迷惑かけやがったなコノヤロー、先輩らしい事何一つやらなかったくせに無駄にかっこよくて人望があってだからこそ生徒会長になって、そんな先輩が大好きなんだよバカヤロー、って気持ちをたっぷり込めました。自分でも気持ち悪いとは思います。だけどそれが本心だし、俺自身素直になれるのは先輩くらいなのでそれもまたいいかな、と勝手に自己完結しています。勿論、答辞に気持ちを込めただけであって、文字にして伝えたわけではありません。



卒業式も終わり、会場の片付けをしました。在校生はパイプ椅子を片付けるだけでしたが、生徒会メンバーは暗幕や看板を片付ける仕事があったので、帰るのはみんなよりすっかり遅くなってしまいました。


先輩は今頃、クラスメイトとの打ち上げに興じていて、馬鹿みたいに騒いでんだろうな、と暗い帰り道、とぼとぼと歩きながら思いました。すると急に胸が苦しくなってきて、涙が溢れてきました。本当に急です。俺は答辞を送る側で、先輩は送辞を送る側。たった一年の差がこんなにも大きな壁となって立ちはだかるだなんて思ってもみませんでした。当たり前です。だって先輩を好きになる予定なんてなかったのだから。俺だって先輩と同じクラスになりたかったし、卒業式で一緒に泣きたかった、打ち上げではしゃいだりしてみたかったのに、たった一年、いや、先輩は十月生まれで俺は五月生まれだから、たった七か月擦れ違っただけでその願いは叶いませんでした。


すると、涙で霞む視界に銀色の何かが映りました。否、本当ははっきりと分かっています。先輩です。何故か先輩が俺の帰り道に突っ立っているのです。心の底から嬉しかったけれど、反面少し戸惑いました。今の俺には、卒業おめでとうだなんて言える心の広さはありません。普段だって言いたい事の一つも言えない程つんけんしてしまうのに、一体今どうすれば冷たい言葉を掛けずに済むのか、俺には分かりませんでした。それより何より俺は今泣いているのです。涙を拭えば分からないかもしれませんが、目が赤いのはきっと誤魔化せないでしょう。勘の良い先輩にはきっと俺が泣いていた事が分かると思います。しかし歩みを止める訳にもいかず、俺と先輩の距離はどんどん近付いていってしまいました。



「……よお」

「…こんばんは」

「そんだけかよ。卒業したっつーのにさ」

「……何で坂田先輩はこんなとこにいるんですか?打ち上げとか、送別会とかないんですか?」

「あー…ちょっと顔だして、抜けてきた。何かあーいう集まり行ったら本当にお別れなんだなーって思い知らされて…哀しくなるから」

「…そうなんですか…」

「…まあ、土方の顔見る為っつーのもあるけど」




先輩が不意に妙な事を言いました。それはどう捉えればいいのでしょうか。仲良かった後輩に挨拶をする為?それとも、後輩としてではなく、土方十四郎に挨拶をする為?



「…何ですかそれ」

「そのまんまの意味だよ。最後に土方の顔が見たくて」

「毎日見てたじゃないですか」

「まあね。生徒会大変だったもんね」

「先輩が仕事しなかったからですよ」

「何を言う土方。俺がいなかったら更に大変だったに決まってんだかんな」

「……よく言いますよ」

「…ってか俺こんな事言いに来たんじゃねっつーの…」



そう言うと先輩は光る銀髪をくしゃりと掻きあげました。天パのくせに綺麗な髪質をしていて、思わず見とれてしまいます。



「……んな見んなよ……照れる…」

「えっ…あ、すいません…」

「別に謝んなくていーけどさ…」



少し沈黙が流れました。先輩は何かを言いたげにしています。俺はうまい言葉が掛けられなくて、まごまごしていました。


「……土方」

「何ですか?」

「………俺は、お前と二年間生徒会やれてよかった。勿論、他の奴らも含めてではあるけど、やっぱお前は特別だったよ。馬鹿みたいにつっ掛かってきたり時々すげーボケかましたりしてさ…本当楽しかった。俺は学校に行く度に、いつの間にか土方を探すようになってたよ。学年違ぇのは分かってるのに。いつの間にかお前がいない生活がつまんなくなってた。…………いつの間にか、好きになってたよ」




「せ……んぱ、」




先輩は俺のおでこにキスをしました。先輩の唇は冷たいのに、そこから漏れる吐息が暖かくて、頭がおかしくなるかと思いました。脳内が熱を出して、思考を狂わせます。



「コレ、貰ってよ」



先輩から差し出されたのは第二ボタンでした。



「自慢じゃないけど今日だって何人かに下さいって言われたのに、土方の為にとっといたんだ。いらないかもしんねぇけど、お願い」



俺は震える手でそれを掴みました。その際指先が先輩の掌を掠めたので、思わず先輩の顔を見ました。そのまま目線を合わせ、手を握りました。先輩はまた、優しくおでこにキスをしました。



これ以上言葉は要りません。俺だけはっきりとした言葉を貰って何となく悪い気がしたけれど、送辞にたっぷり気持ちを込めたので別にいいかな、と思います。先輩はその気持ちに気付かない程野暮ではありません。だからこそ俺は先輩が好きなんです。









送辞と答辞(送る側、送られる側。)







あきゅろす。
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