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下馬評チョコレート
※沖土 原作





「……………暇だねィ」



今日は久方振りのオフだ。しかし休みの日に遊ぶような友達もいない。近藤さんとも土方さんとも一緒じゃない休みなんてやる事は何もない。



「…………暇だなァ」




溜息と共に呟いたが、それで何かが変わる筈もなくて。仕方なく外に出る事にした。ずっと部屋の中に籠ってたら息が詰まっちまう。




「近藤さーん。ちいと出掛けてきまさァ」



俺は出掛ける時は一々近藤さんに報告してから出て行かなきゃならない。小さい頃、不貞腐れては何処かへ消える俺を心配して近藤さんが言いつけた事だった。今になってさすがにそんな事しないけど。長年の癖は抜けないし、止める必要性もないので続いている習慣だ。



「あいよー。夕飯までには帰って来いよー」



「分かってまさァ」



そう行って屯所の門を出た。風が凄く強くて、そういえば今日は春一番が吹くだなんてテレビで言ってたなー、って思った。



「あれ、隊長、今日オフですか?」



道すがらに山崎に会った。隊服姿でミントンラケットをしっかり握り締め、息を切らしている。


「…そうでさァ。何、お前ェは勤務中だろィ。土方さんに迷惑掛けたら駄目ですぜィ」

「何言ってんですか。隊長のが何倍もめいわ……あ、すいません嘘です嘘ですお願いですからバズーカーしまって下さい」


「……で、土方さんは何処にいるんですかィ?」

「さァ…必死で逃げてたんでよく分かりません」

「…………この地味ントンが」

「地味とミントン混ぜないで下さい!!俺を侮辱するのは構いませんがミントンまでもは許せません!……あ、嘘ですすいません調子乗りましたお願いですからバズーカーしまって下さい」



山崎と戯れるのも程々にして、土方さんを探す事にした。どうせ山崎を探すのに躍起になって頭に血が上ってんだから、そこを更に逆撫でて…じゃねーや、上手く言いくるめちえば俺と遊んでくれるだろう。




「あーー!ちょっと!ちよっとそこのイケメンドS王子!」

「…何ですかィ旦那」

「あ、イケメンドS王子で振り返っちゃうんですか〜。沖田君ってば案外ナルシストなのね」

「歌舞伎町に俺以外にイケメンドS王子なんざいやしないでしょ」

「…てめぇ真性ナルシストか」

「本当の事なんだから仕方ないでさァ」

「……沖田君真顔止めてくれるかな。銀さんやりずらい。本気なのそれ。まじで言ってんの?」


あーもうっ、と旦那は頭をガシガシと掻いて、そんな事より、と先を続けた。


「あのさァ、金貸してくんね?」

「却下」

「いや話聞いてよ!ワンコインでいいから!お願い!財布忘れちまったんだよ!団子代払わねぇと顔面岩女に婿行かなきゃなんなくなっちまう!」

「良かったじゃねぇですかィ。あんたみたいな万年プー太郎にも貰い手があって。バレンタインデーに結婚なんてロマンッチックぅ」

「ロマンッチックぅ、って何だよムカつくな!つかプー太郎でいいから!この際それでいいから、お願い!」


「……だったら土方さん見ませんでしたか」

「土方?」

「はい。土方さん探してるんで、教えてくれたらいいですぜィ」

「はいはいはいはい!銀さん見たよ土方!そこの煙草屋の角凄い勢いで曲がってったと思ったらUターンして煙草買ってまた戻ってったよ!」

「ありがとうごぜぇます。じゃあ、これ、金でさァ」


旦那の手の平にチャリン、と小銭を置いた。


「サンキュー沖田く……ねぇ沖田君足りねぇよ!十円しかないけど!」

「ワンコインでいいって言ったじゃねぇですかィ」

「ワンコインっつったら普通五百円だろ!常識じゃん!テレビでもワンコインランチ〜とか言ってやってんじゃん!」

「勝手な常識人に押しつけないでくだせェ。じゃ、俺はこれで」


叫ぶ旦那は捨て置いて、先を急いだ。そういえばさっきさり気なく言ったけれど、今日はバレンタインデーだ。屯所にも沢山のチョコが届いていた。近藤さんはうはうはしながら自分宛のチョコを探していたが、その殆どが土方さんと俺宛で、がっくり肩を落としていたのを覚えている。一個あげやしょうか、って言ったら寂しそうな瞳で見つめてきた。


すると、甲高い女の声が耳に飛び込んできた。かなり、不快。


「きゃーー!アレ見て!真選組の副長じゃない!?」

「え〜…?知らない。何、あんた真選組好きなの?」

「うん!つか副長のファンなんだよね!やば!生副長〜!」

俺は小さく溜め息をついた。最近こういう族が増えたのだ。真選組をジャミーズか何かと勘違いしてる奴。俺たちはあくまで幕府直属武装警察でしかないのに、土方さんとかの見た目だけを見てキャーキャー騒ぐ女達。いや、騒ぐだけなら勝手にしてろ、って感じだが、土方さんにキャーキャー言われんのはムカつく。土方さんは俺のモノなのに。


「ジャーン。見てこれ!今から屯所行ってポスト入れてこよーと思ってたんだけど、これなら直に渡せるね!」

「え、何それチョコ?嘘、まじであげんの?やるね〜。頑張って!」



有り得ない。俺の目の前で土方さんにチョコを渡すだと?今時な風貌をした可愛らしい女だけど、それだけは許せない。つーか許さない。体が勝手に動いていた。



「ちょーっとお嬢さん。そのチョコ、誰にやるんでィ」

「え………あっ、沖田隊長…!何でここに…ってかチョコですか!?えっと…土方副長に渡そうかな、なんて」

「悪ぃねィ。あの人は俺のだから、チョコは受け付けてないんでさァ」

「え……?どういう意味ですか?」

「だから、こういう事」


ちょっと待ってて下せェ、と女達に告げ、柄悪いヤンキーみたいにしゃがみながら煙草を吸っている土方さんを呼んだ。


「土方さーん!こっち来て下せェ!急用でさァ!」



こちらに気がついた土方さんは、のそりと立上がり徐にこちらに近付いてきた。チョコを手に持った女は、きゃー!やばいこっち来てるよ!生副長まじやばい!、なんて小さい声ではしゃいでいる。



「んだよ総悟。今日はオフだろ。まさかお前が自ら仕事してるわけない……」


土方さんが続きを言う前に、咥えた煙草を抜き取り、緩く開いた唇に割合しっかりとしたキスをした。



「……こういう事、でさァ」


凍り付く場の空気。俺だけが平然とした表情で立っている。女は小さく、嘘ぉ、と呟いた。



しかし女っつーもんは好奇心旺盛で、放心状態に陥ったかにも見えたのに直ぐ元気を取り戻し、俺たちの関係を根掘り葉掘り問い質してきた。面倒臭い事この上なかったが、今ここで土方さんは俺のモノ、って証明しとこないと後が煩いのでしっかり答えてやった。そりゃあもう正直に。俺と女が話している間、土方さんはずーっとポカーンと口を開けたまま閉じる事はなかった。


ようやく満足したのか、女はチョコを渡さないまま友達と帰っていた。あー疲れた。本当女って大変。



「そ…うご」

「何ですかィ」

「い…今なんで」

「何かムカついてねェ。つい」

「つ…つい、じゃねーよォォオォオ!なぁ!お前馬鹿なのか?もうダメだ!暴力警察の次はホモ警察呼ばわりだ絶対!評判がた落ちじゃねーか…」

「ま、いーじゃないですかィそんくらい。下馬評に振り回されんのなんて性に合わねぇや」

「……でも」

「どーでもいいから、俺にチョコ下せェよ」

「…んで俺がてめぇにやんなきゃなんねぇんだ」

「え、そりゃ土方さんが受けだから」

「あーーー!そういう事言うな!死ね総悟!てめぇにやるチョコなんざねぇよ!くそっ…帰る!つーか屯所帰ったらてめぇの分腐る程あんだろ!」

「あんなんより、あんたのが欲しいんでさァ」

「知らねぇよ!てめぇが悪ぃ、……せ…折角俺………買っといてやったのに…」


土方さんはいきなり塩らしくなり、しょんぼりと下を向いた。まさか、買っといたって…チョコ?その続きが聞きたかったけれど、聞かずとも分かってやるのが男かな、なんて察した俺は偉いと思う。その代わり、土方さんの懐に収まっていた小さな板チョコはおいしく頂いたけどね。


評チョコレート
(第三者の間で行われる批判の事)







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