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謙也と陸上

中学共通女子200m走準決勝、その結果が表になってようやく掲示板に張り出されたようだ。わらわらと集まってくる選手達の中で、私も人込みを掻き分けながら前に進む。同時に発表されていた決勝のメンバーに自分の名前を見つけた。3位通過ならまずまずだろう。午後に行われる決勝に向け、頭の中でアップメニューを組み立てはじめる。
府大会の決勝ともなるとそれなりに顔見知りが集まることが多く、上位の2人は去年の準決でも顔を合わしているメンバーだ。
準決でのタイムは25"93……少し流しすぎたかもしれない。
そこまで見て、男子の決勝メンバーも発表されていることに気付いた。

「………にんそく…けんや?」

一位通過、タイムは22秒フラット…。速い。けど、知らない名前だと思う。

「えっ…四天宝寺中学…?!」

お、同じ学校…!陸部ではないはずだ。にんそく…?しのびあし…?

「何者やねんにんそくって…」
「ニンソクて何?」
「あ、ナーミちゃん」
「やっほぅ侑」


明るいアッシュをポニーテールにした彼女は葛城夏弥、私の親友でもありハイジャンの将来有望視されている選手でもある。

「四天宝寺から知らん奴が試合出てんねん」
「それがニンソク?」
「もしくはシノビアシ。」
「なんやそら!」
「だって読めへん」
「いやいや知っとこうよ」
「?」

「忍足君、やろ?」


当然の如く夏弥が言ってのけたその名前は、何となく聞き覚えがあるものだ。おしたり…おしたりけんやって確か………?

「テニス部のオシタリ…?」
「なんでそんな曖昧やねん」

さすが侑やなぁ!と軽快に笑う夏弥。別にええやんけ、と受け流しもう一度紙へ目線を移す。
200を22秒…か、未知の世界だ。彼の目には、あの赤茶色いタータンが、過ぎ行く景色が、どのように映るのだろう。空を裂きその身に風を纏いながら、地面を蹴りカーブを走りきる爽快感は如何ほどのものだろう。男子にしか知り得ない感覚に思いを馳せながら、トラックへと視線を向ける。


「まずは決勝、やな」



私にとって陸上競技場は己と闘う戦場でもあり、またその成果を数値として刻む神聖な場所でもある。応援の声が飛び交う競技場を背にし、私達はとりあえず四天宝寺中の仲間が待つテントに戻ることにした。





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競技場や学校によって違いますが、学校からテントやシートを持ってきて場所取りをすることがあるんです。


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