Beautifle days
目を逸らせば終わる、僕らの長い夏。
―――今ならまだ美しく、
Beautifle Days
教室の喧騒が煩わしい。
あちらこちらのノイズが無遠慮に交叉し合い、意味のない音の塊となってクラスの中に充満している。
こういう雰囲気ははっきり言って、嫌いだ。
仁王は窓側一番後ろの席(特等席だ)で静かに溜息を吐いた。
「におーじゃん!オハヨー」
「おはようさん、ブン太。おんなしクラスやったんじゃの」
「だな。ったく副部長のやつイカれてんぜ、始業式の朝っぱらから朝練だなんてさぁ、クラス発表あんのに掲示板見れねぇっつの。つか仁王始業式いたっけ?」
このペラペラと五月蠅いやつは丸井ブン太。彼は、嫌いじゃない。
騒々しい雑音とは切り離され、彼の声を頭が認識する。
それにしても皆少しざわつき過ぎじゃなか?クラス分けの直後―にしても、だ。鬱陶しい。
「サボった」
「あー………」
「クラスは柳あたりから聞いたんか?」
「いや、そこらへんの女子が叫んでるのを聞いた……仁王、お前さ、始業式出てないんだろぃ?あれ、知らないんじゃねぇの?」
「あれ?」
「うん、今うちのクラスその話でもちきりじゃん、」
ガラガラガラッ
ブン太の声は、教室の扉が開く音で途切れた。
あれ、とは何だろう。
開けられた入口から、これから一年間担任になるであろう教師が入ってくる。後ろに誰かが、追って入ってきた。
知らない顔だ――…
そう認識するかしないかの刹那に、俺の思考回路は完全に停止した。
眉目秀麗、そんな四字熟語がふと頭を過ぎる。
それ程までに、彼女は美しかった。
目を離すことが出来ない。息を吸うことすら苦しい。この衝撃は、なんだ―――…
「新入生を紹介する」
担任が何か喋っているような気がしたが、俺には全く聞こえなかった。
「始業式でもご紹介に与かりました。改めまして、飴屋侑です。」
彼女の声だけが、俺の脳でガンガンと反響する。飴屋、侑…。
俺は死んでもこの名前を忘れないだろうと、予感した。
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