離れたくない、
目の前で優雅に紅茶を飲むヴォル。俺はそんなヴォルを、睨みつけた。
「ヴォル…」
「なんだ」
「なんで俺は、未だに部屋から出ちゃ行けないんだ!!」
ガタンと思い切り、椅子から立ち上がり、ヴォルを見る。
「そんなの、私が許さないからだ」
このやろう、しれっと答えやがって。俺はダンッとテーブルを思い切り叩いて、抗議した。
「だから、何で許さないんだよ!!」
「何か問題でもあるのか?」
「大ありだ、馬鹿やろう」
この屋敷に来て、3日がたった。少しずつだけど、この生活にもやっと慣れ始めた。そこで出てきた疑問。
ヴォルは最初の日から、俺を絶対に部屋から出さない。唯一行っても良いのは書斎だけ。
それもヴォルが一緒じゃ無いといけない。それが何故なのか、良く分からない。
「確かにこの部屋は広いし、快適に過ごせる!だけどこの部屋にずっといるなんて、つまらねえんだよ!!」
「書斎に行くのは許可してるだろう?」
「ヴォルがいなきゃ行けないじゃねえか!」
「この3日、毎日来てやってるだろ」
「それでも数時間だけだろ!屋敷の中を歩いてみたいし、庭にも行ってみたいんだよ!!」
「暇つぶしなら、ルシウスやリドルがいるだろう」
「……くっ!!」
「はぁ…、それぐらいにしときなよ」
「リドル!」
いつの間に来たのか、リドルが俺の隣に来ていた。
リドルは別にこの屋敷を出歩いてもいいらしく、今日は(俺がヴォルに貰った)地図を持って屋敷を探索しに行っていた。(どうやら、リドルはこの屋敷を良く見たことが無いらしい)
……リドルは良いのに、なんで俺は駄目なんだ。
「聞いてくれよ、リドル!ヴォルってば、未だに俺が部屋から出ちゃ駄目だって言うんだぜ!!」
"酷いよな!"とリドルに訴えかける。リドルは、よしよしと俺の頭を撫で、ヴォルに視線を移す。
「セイラは行く場所も無いんだし、逃げるような事はしないと思うけど?」
「はっ、そんな理由では無い」
ヴォルは肘掛けに手を置き、偉そうに足を組んだ。そして、ジッと俺を見つめてくる。
「逃げる事を考えてではない、目の届く場所にいてほしいのだ」
……目の届く場所にいろって事は、逃げるなって事じゃないのか?
「お前は酷く、不安定な存在だ。ふとした事で、消えてしまいそうな程に…」
そう言ったヴォルは、凄く真剣な顔をしていた。俺は少し驚いて、きょとんとしてしまった。
リドルも驚いたのか、俺の頭を撫でていた手をおろしてヴォルを見ている。
「もともと、セイラはこちら側の世界の人間では無いのだから、いつ戻ってしまっても不思議では無い」
「―――じゃあさ、」
ヴォルのところに、ゆっくり歩み寄る。ヴォルは、不思議そうに俺を見ている。
「約束、してやるよ」
目の前に行くと、ヴォルを指差して不適な笑みを浮かべる。(人を指差しちゃいけません?知るか)
「たとえ元の世界に帰っても、会いに来てやる。絶対に!」
俺がそう言えば、ヴォルは驚いた顔をしたけど、やがてくっくっとのどを鳴らして笑い出した。
「良いだろう。その言葉、忘れるなよ」
「勿論!」
こうして俺は、この部屋から出る許可を貰った。
離れたくない、
(そう思っているのは)
(きっと、皆)
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