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腹中(1ページ)


「欲しいな君の」



グラリ。
グラリ。
歪む視界。

一体何が起こったのか。


「欲しいな君の」


ニィと笑う彼。

「君の全部がだよ」




生温かい肢体がゴロリと床に転がった。

その目も口も舌も腕も足も骨も内臓も。
みんな欲しい。


でもズタズタにするのはもったいない。

一つ一つ丁寧に肢体から切り放してホルマリンで満たしたフラスコに入れるんだ。

ずっと綺麗なまま。
内部を包み隠さず露呈させてね。



「僕は君の心臓の音が大好きなんだよ」

だからこれだけは特別。
綺麗な瓶に入れてあげる。


「イヒヒ…イヒヒヒ」

大好きな彼もこうやって死んだのかな?


グチャグチャグチャ。

なんて心地良い音なんだろうか。






「スマイル、一体私の体で何をしているのですか?」

「イヒヒ……解剖ゴッコだよ〜」


グチャラグチャラと転がる内臓類は彼の綺麗な足に蹴られ壁に飛び散った。


「なんと悪趣味な」

「僕の勝手でしょ?」


まだ温かい。


「ジズはさ壊れたもの直せる?」

「契りさえ交せばいくらでも直してあげますよ」

「仕事の話は止めてよね〜イヒヒ……」


壊した彼の体はすぐ戻る。
だけど僕らの体温は戻らない。

冷たいまま。
どんどん壊れていく。



「ジズは何で死んだの?」

「さあ。生前の記憶はありませんからね」



嘘吐きめ。
僕は知ってるから。

君が禁忌を犯して肉体も魂も失ったってことをさ。




「僕はね欲しいものは何が何でも手に入れるタイプだから

だから君の心臓も何もかも欲しいんだ」


ニュウと手を伸ばす。

しかし彼は幽体化し僕の手はスルリと彼の体を抜けた。


「ズルイよ」

彼の心臓の辺りをギュウと握り締める。
手応えも何もなくてちょっと虚しくなった。



「スマイル貴方は我が儘ですよ」

「いいじゃん
お互い楽しもうよ」


「大体私を気絶させて悪戯などとは感心しませんが」

「その言い方ってさまるで僕が変態みたいじゃない?」

「そういう意味を込めて言いましたよ」




イヒヒヒ……と誤魔化すように僕の声が部屋に響いた。

「君の全部が欲しい」


再び我が儘ですよと言い返された。






end


あきゅろす。
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