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キミにコイワズライ



午後の休息には珈琲が良い。ブラックの苦味がリフレッシュにピッタリだ。
それなのに目の前の椅子には珈琲の様に真っ黒な招かれざる客がいる。

「珈琲に砂糖は入れないのかい?」
「仕事中だ。邪魔するなら出ていけ」
「君が仕事だなんて明日雨でも降るんじゃないかな」
「出ていけと行っているだろう」

眉間に皺を寄せ手を払った、これで出ていけばどんなに楽か。
極卒はニヤニヤとしながら私の机に腰掛ける。
もう注意する気も失せた。

「ねえヴィルヘルム君」
「……なんだ」
「僕は不治の病かもしれない」
「唐突になんだ」

また始まったか、事の流れなど読まず唐突にわけのわからない話を仕出すこいつの悪い癖。
どうせ聞き流してしまえばいいと書類に目をやるが、不意に視界を遮られる。
顎を人差し指で持ち上げられ、目の前に不愉快な奴の顔。

「何の真似だ」
「君を見てると可笑しくなるんだ。鼓動が不整脈を起こして呼吸が乱れる、どうしてくれるんだい」
「私が知るか!貴様が勝手にそうなっているだけだ」
「でもね原因がわからないから治しようがないんだよ。君のせいでこうなったんだから君には僕の病気が治るまで僕に尽くす義務がある」


「いい加減にしろ」
机を叩き立ち上がった。叩いた衝撃で書類が数枚床に落ちた。
奴を睨みつけたが飄々とした表情は変えない。

「貴様は私の仕事の邪魔だ。今すぐ出ていけ」
「ヴィルヘルム君ってばすぐ怒る」
「誰のせいだと思っている」
「全部僕のせいだって言うのかい?」
「その通りだろう。わかったら今すぐ出ていけ」

極卒はオーバーリアクションに頭を抱え溜息を吐いた。
どこまで私を愚弄すれば気が済むのだこいつは。


「不愉快だ大変に不愉快だよ僕は。僕は一時でも長く君と同じ時間を共有したいというのに」
「意味がわからない」

「でもね、一番わからないのは君を好きになった理由だよ」

「好き、だと?誰が誰をだ」
「決まっているじゃないか。僕が君をだよ」

ガタンとコントの様に椅子から滑り落ちる。
嫌がらせしかしてこないこいつが私を好きだと?意味がわからない。
椅子に座り直して頭を抱えた。

「どうしたんだいヴィルヘルム君」
「もう貴様の冗談に振り回されるのはうんざりだ。良いから出ていってくれ、ジャックにどやされる」
「此処から出ると病気が治ってしまうんだよね」「ならば早く出ていけ」
「君はそういう事ないかい?」

「(それは私も……同じだ)」

「ヴィルヘルム君?」

「早く出ていけ」


はいはいとニヤケた顔でカップに残った珈琲を飲み干し極卒は出て行った。
奴が居ると気の休まる場所が無くなる。
それなのにどこか心に隙間風のような虚しさを感じるのは私も病気だからだろうか。


「珈琲、入れ直すか」

苦い珈琲は気分転換に最適だ。










end

好きって言わない両片想い好き。


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