薔薇 誕生日に贈る花束は誠実で、無機質な造形に笑む君に僕はニヒルな笑顔を返す。 誰にでもそんな表情を振り撒いて本当に君は罪深い。 何故ならたった一人。一人だけには血の通った微笑みを見せるのだから。 僕にも見せてよ。人形じゃない君を。 ねっとりとしたキスで身動ぐ彼。 重ねた指がささやかな抵抗をするが次第に力を失って従順となる。 その綺麗な瞳だけは決して僕色に染まらない。例え体を重ね汚して傷付けたとしても。 「ねえ僕とアッシュのさどっちが巧い?」 「何がだ」 「セックス」 「さあな。興味がない」 彼は本当に興味がなさそうに外向く。 男に抱かれるより美女の生血の方が良いってことかな。普通の吸血鬼か、と僕は思う事にする。 「好きじゃない相手に抱かれるってどんな気持ちなのかな。アッシュに是非訊いてみたいよ」 「嫌いじゃない」 「ん?」 「お前も私を好いているのだろう」 一瞬フリーズする頭。すぐにいつもの嘘つきの表情に切り替える。 「なんだバレてたの。僕がユーリのこと好きだってこと」 どうして指が震える。普通嫌いだって思うじゃない?どれだけ酷いことしたかわかってる。 「私が何も知らないと思ったか。お前はいつでも人の気持ちを弄ぶ」 「弄んでるのはユーリでしょ、この淫乱ビッチ」 「抵抗した方が興奮したか」 「まあね。それでアッシュが呆然として僕を軽蔑してくれたら最高」 「相変わらず悪趣味だ」 「ねえユーリ。好きなのは本当」 棘の無い薔薇を一輪挿しから取り出す。 「君が僕の気持ちに気が付かないから意地悪しちゃった。イヒヒ…また一緒に寝てくれる?」 「断った所で無理やり抱くだろう」 「なんだわかってるじゃん。好き好き愛してるユーリ」 僕の花束は下心に満ちていて、誠意を込めた彼の気持ちには遠く及ばない。 だから笑わないんだ彼は。 一輪の薔薇に込められた想いを知っているから、僕はグシャグシャに壊してしまいたい衝動を抑えシーツの下のユーリの体に落とした。 鮮血の様に赤い薔薇。僕の汚した証。 「おやすみユーリ」 一方的な僕の身勝手、それでも好きは嘘偽りじゃない。 絹糸の様に柔らかな髪を撫でて眠った。 「ユーリその…プレゼントッス」 目の前に赤い薔薇の花束。鮮やかな赤の向こうに照れた狼男。 「日頃お世話になってるし薔薇好きだって聞いてユーリに似合いそうなの頑張って選んだッス」 「そうか」 本当は薔薇は嫌いだ。触れれば精気を奪い無惨に枯らし散らす吸血鬼の性。 壊さぬよう一本だけ抜き取った。 「有り難く頂こう。残りは生けておいてくれ」 「わかったッス」 嬉しかった。私を喜ばそうと一生懸命に選んだのであろう。がらにもないくせにな。 薔薇の香りは芳醇に満ちて甘かった。 いとおしく一輪挿しに生け花びらを愛でる。 「私も愛している」 end |