liar girl
White lie
枕元で煩くなる目覚まし時計を少し乱暴に止め体を起こす。
…そういや、廊下で視界がぐらついた以降の記憶が無いんやけど、何でベットで寝てたんやろう?
というか、もう五時なんかい!?
大方母が引っ張ってくれたのだろうと思いながらスマホを見ると通知が来ている。
朝ご飯作るまでにはまだ少し時間があったので見てみると母と…宮地からだった。
母の方はただ“体調管理に気をつけなさい”と“運んでくれたのはみゃーじ君だから、お礼言っときなさいよ?”とだけ来ている。
へぇー、みゃーじが……って宮地が!?
思わず叫びそうになったのを早朝だと思って我慢できてほんま良かった。
…宮地がうちを運んだってことは、この部屋も見ているってわけで。
一旦自分の部屋を見渡して見るが“はい、アウトー”な状態になっている。
これが噂のリアルorzって奴かいな…!!
1人静かに発狂したあと、宮地の方を見てみると長文が大量にあった。
うち速読出来るから良いけど…いや良くないやん。
めっちゃ長い内容をまとめると、睡眠をしっかり取れ。とかが書かれてて、ラストに“俺らを心配させるな、轢くぞ!”と宮地らしかった。
取りあえず返事代わりに、黄瀬に似ている某ナンパ将軍のスタンプを送っといた。
けど、俺ら…か。
White lie
時間ギリギリになりそうやな。
と思いながら救急箱を閉じ、そばに置いてあった新聞の束を小脇に挟んでリビングに向かう。
えっと…確か鮭があったはずかし、あと味噌汁とお浸しか。
そう献立をたてながら袖を捲って冷蔵庫を漁る。
あっ、昨日ご飯の準備出来てないやん。
ふと思い出し、慌てて米を洗っていると後ろから声がした。
「おはようございます」
『おはよー黒子。……ん?』
反射的に返事したけど、うち黒子って言ったよな?
手を止め恐る恐る振り返ると、いつぞやの合宿ほどではないが髪を爆発させてる黒子がいた。
…これは確かにサイヤ人って言われても仕方ないわ。
「もう大丈夫なんですか?」
『…?』
「風邪です」
…たしか宮地が風邪って言っといてやる、とか書いてた気もする。
『大丈夫やで。元々軽かったし』
「なら、良かったです。……何か手伝える事は有りませんか?」
『うち、一人で出来るで?』
「それは昨日まで見ていて知ってます」
見てたらならそりゃな………って、一旦ストップ。
朝からキャパオーバーしそうになる。
『…もしかして、朝ずっと居てた?』
「もしかしなくても、ずっと居てました。ほのかさん気づいていなさそうでしたし、僕が手伝っても足手まといかと思い黙っていたんですけど…流石に今日は手伝わせて下さい」
『…んじゃ、髪の毛整えてこれ着て』
炊飯器を早炊きにセットしてから、使ってないエプロンを黒子に投げる。
まぁ…野菜洗うのぐらいは出来るやろうし、水仕事は米を洗う以外に余りしたく無かったから有り難い。
きっちりダーバンまでしてきてくれた黒子に、菜の花を洗ってもらう間にうちは味噌汁に入れる大根と人参を短冊に切っていく。
「…ほんと手際が良いですね」
少し傷んでいるところを取り除きながら、横目でこっちを見てくる黒子がポツリと呟いた。
『まぁ、毎日作っとるからな。嫌でも上達していくって』
「ですが、昨日の夜は道子さんに作ってもらいましたけど…美味しかったですよ?」
あぁ、大方カントクや桃井みたいなアブナい物でも想像していたんだろう。
そこまで酷い訳ではないが、母もうちも普通の腕だ。
『もしかして肉じゃがやった?』
「はい。…なんで分かったのですか?」
『母さん肉じゃがだけは凄い上手いんだよね。他も普通に美味しいけど普段は仕事で忙しいし、うちが代わりに作ってるってわけや』
父も居ないから、私立に行ってる分もうちが手伝えることは…と中学の頃から家の家事はほぼ全てやっている。
「その上主席とか凄いですね…。中学時代は部活との両立は大変だったんじやないんですか?」
『確かに、入部したての時は大変やったけど半年間もしたら慣れるって』
魚焼きグリルに鮭を並べながら苦笑いする。
普通に話してるけど…黒子は気にしてへんのか?
「その要領の良さと頭脳を少しばかり火神君にわけてほしいです…」
『そのかわりに湯島天満宮のコロコロ鉛筆貰うわ』
「………それこそ、火神君が試合に出場出来なくなります」
…その声色はがち目に危ないんや。
ま、まぁ…点数赤点、授業中の居眠りのダブルコンボは…………そりゃな。
黒子が終始遠い目をしながら料理すること20分程で盛り付けまで完成した。
『…ありがとさん』
「いえ、僕もやっとほのかさんと話せて良かったです」
そういって微笑む黒子には他意は無さそうに見える。
「宮地さんにはかなり打ち解けていたので、行動してみたのですが正解でした」
『……』
…もう何も言わん。
ツッコんだら負けなやつや。
これが噂の真っ黒子様…。
いや、この場合は計算高いの方か。
「…あと一つ聞いて良いですか?」
エプロンを畳んでいると、黒子がソファーの上できちんと畳ながら言ってくる。
こういうところに性格が出るんやんな。
ちなみにうちは座った膝の上で畳んでいる。
『別にええけど、なんや?』
背もたれに肘を掛けながら振り返ってると、少し悩む仕草をしてから口を開く。
「城田…“城田 未来”さんという人をご存知ですか?」
『…黒子の友達?』
「いえ、黄瀬君の幼なじみです」
…黄瀬の幼なじみで黒子が知っている。
さらにはこうやって聞いてくるぐらいやから、居るはずのシーンに載っていなかったんやろう。
と、いうことは…黒子が元居たところは原作のパラレルワールドで、その幼なじみは普通の一般人もしくは――トリップした人間。
いやこの場合は転生したってほうが正確か。
『…いや、知らんわ』
今の予想もあくまで予想や。
変に言ってパニックにならせるよりは黙ってるほうが得策やな。
……けど、それなら黄瀬が気になる。
「そうですか…。あと、」
『一つちゃうんかい』
黒子の言葉に思わずツッコんでしまう。
いや、あれは関西人の血が黙っとらんって。
「これでラストですから…。………それどうしたんですか」
エプロンとダーバンを渡しながらうちの指をガン見する黒子。
…確かに包帯巻いとるけどそこまで気にするか?
ずり落ちてきた袖を再び捲り、受け取って立ち上がる。
『昨日、ちと深めに切ってしもうたから巻いてるだけやって』
「…ほんとにそうなんですか?」
『逆に他に包帯が少し赤くなるのにはそれぐらいしか無いやろ?』
「そう、ですね…」
…苦しいのは分かってるから、そんな顔せんといて。
『んじゃ、上がっとるわ』
「…はい」
ドアノブに手を掛けながら振り返ると、微かに笑う黒子の奥にある時計が目に入る。
“3/26 6:23”
…明日でもう一週間か。
〜罪の無い嘘〜
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