並盛中の日常/ある男子生徒の観察記録
#02
幼児の名乗りに間違いが無いならば。
この目の前に居る幼児は、牛柄君…ランボ・ボヴィーノ本人、ということになる。
理性と常識と知識はそれを否定する…当然だ。
だが、何と言うか、こう、本能めいた部分でそれを肯定してしまう。
『これ』は『ランボ・ボヴィーノ』であると。
「…ランボ・ボヴィーノ…?」
「おまえ、だれ?ランボさんのことしってる?」
周囲の生徒達も、教師も、こちらを遠巻きに様子を見ているが、声を掛けたのが俺だけだった為か、自称ランボさんの興味の対象は俺に限定されてしまったようだった。
大きな目をクリクリさせて俺の顔を覗き込む。
「…瀬戸口…だ。お前の、同級生…だ…多分…」
「どうきゅうせいってなに?」
「…学校、は分かるか?そこで一緒に勉強する人の事だ」
「がっこう!ツナがいるとこだもんね!ツナはどこ?」
「…ツナ…というのは分からないな。人か?」
「ツナ、しらない?」
ヤバイ。不安になってきたのか涙目になってきた。
幼児な割に会話がキチンと通じるのは有り難いが、とにかく状況が掴めない。
この幼児がランボ・ボヴィーノであると仮定して、ツナという人に連絡が取れれば事態は解決するのだろうか?
この縮んで仕舞ったランボ・ボヴィーノを知る人が、この学校に居るのだろうか?
「先生!ランボ・ボヴィーノの連絡先っ!校内での幼なじみとか!」
この状況をただ傍観する教師に、そう叫びかける。
…っていうか、放置しないでよ、先生…。
「あ、あぁ…確か中国人留学生…のイーピンくん…が…ああぁダメだ…彼女は今、空手の県大会で学校にいない。
…連絡先を調べに職員室へ戻る…このまま待機しとけ」
おおおおい!!
このまま置いてくのか!?この幼児を!
俺が相手してろと!?
「がっこうにはツナがいるんだもん!おれっちしってるもん!」
涙目になりながらも、必至に涙が流れるのを堪えるランボさんを見ると、なけなしの良心が疼くというか、いたたまれない気持ちになる。
「ああ、そうだな。今、ツナを探してるからちょっとだけ待とう?な?」
「うううぅランボさん、ガ・マ・ンするもん」
見るからに柔らかそうなアフロ頭を撫で、ランボさんを慰める。
良く分からないなりに、ランボさんもおとなしく辛抱してくれているので助かる。
「ランボさんは偉いな。ガマン出来るもんな?」
偉いからご褒美だ、とポケットに入っていた飴玉をランボさんに与える。
子供はこれで宥めるのが手っ取り早い。
「アメ!ランボさん好きだもんね!」
…ああ。
何となくだが、これからの学校生活は波乱に満ち溢れている…様な気がする。
「取り越し苦労」で済むことを心から願っている自分がいた。
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