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並盛中の日常/ある男子生徒の観察記録
夏休み:宿題しようよ。

無事、英語の補習もクリアして迎えた夏休み。

受験生たる俺は、塾の短期講習もあるから遊びを全力で満喫…とは流石にいかないけど。

まぁ、身の丈にあった高校を選ぶ予定の俺としては、地獄の勉強漬けって訳ではないので、割合のんびりとした夏休みを過ごすつもりだったりする。



………予定は予定でしかなかったが。

俺は現在牛柄くんの家に居る。
…家っていうかホームステイ先?
まぁそういう家。沢田さんち。

……沢田さんは居ないけど…沢田さんのお母さん(奈々さんと言うらしい)と留学生であるイーピンさんが一緒に住んでいると牛柄くんが教えてくれた。

って!おい!
今、このジュースを持ってきてくれた人が奈々さんだと!?
沢田さんのお母さんだろ!?
少なく見積もっても40代にはなってるだろ!?

俺の母さんより年上なの?あれで?
………若すぎだろ…いくらなんでも。

初っ端からカウンターパンチ喰らった気分だ。


……おっと。
俺が牛柄くんの家に来たのには訳がある。

膨大にある夏休みの宿題を効率的に消化する為だ。

……牛柄くんって英語は涙を誘う出来だが、それ以外は割合出来る。
国語や数学なんかは俺より出来が良い。

しかし…この見てくれで日本語が堪能ってのはサギだよなぁ。

外人タレントが東北弁話すような違和感?
同級生として流石に慣れたが、最初は違和感が付き纏ったものだ。

…日本人ってのは精神的には、未だ鎖国状態なんだと思うんだよな。
日本語を話す=日本人って図式が意識の根底にあるもんな。


ともあれ、どうせなら効率的に宿題を片付け、余った時間をそれぞれの弱点克服にでも充てようってのが、俺達の目的だ。

ついでに……俺としては、牛柄くんの生態への好奇心もある。

折角なので観察記録でも付けようかってくらいには、好奇心を刺激する物件ではある訳で。
一学期中は突然の出来事に余裕が無く、目先の対応に追われてばかりで、思い返せば非常に残念なデータの蓄積量だったりする。

ここはやはり、積極的に牛柄くんに接触を計り、俺の好奇心を満たそうってのがどちらかというと本命だったり。



「……瀬戸口…来て早々、なんでベッドの下や本棚の裏を覗くかな…?」

「同性としての嗜みだ。気にするな」

「いや、気にするって。瀬戸口の期待する様な物は、その辺には無いからね…言っとくけど」

「…持ってない訳では無いと…」

「ツッコミ入れるねぇ。あるにはあるよ?
ボンゴレの…ツナさんの友人が、海外のアレなヤツをお土産にくれるから。
瀬戸口…欲しいならあげるから。後でね」

……ツナさん…沢田さんの事、ボンゴレって言った?
愛称か何かかねぇ?
しかし、ボンゴレ?…何故に貝?

それにしても、こういう話題に案外、淡々としてるなぁ…牛柄くん。
勝手に本棚漁ってる俺が言うのもアレだが。

こういうのって、もう少しコソコソするとか、照れるとか無いもん?
淡白なのか、見すぎてそういう感性がマヒしてるのか…微妙だ。

ま、俺もソレへの好奇心はあるが、今すぐソレを見たい訳でないし。
サクサク目的を達成しようか…ということでお勉強開始。




「……おい。方程式の途中計算式が無いのは何でだ?解答だけって?」

「途中経過が分かんないから」

「……はい?」

「答は問題を見れば何となく分かるんだけど…どうやったらその答になるのかが説明出来ないの」

……ああ、居たなぁ…歴史上の物理学者(だっけ?)にそういうヒト。
アインシュタインだっけ?

一般人から言わせて貰えば、数学を『何となく』で解かないで欲しいんだが。

「途中の計算式も採点の対象だから、無いとテスト困らないか?」

「…困るよ。減点されてるし。先生にも良く言われてる…でも分かんないだもん」

「『だもん』でなく。これじゃ参考にならないだろうが」

「解答は合ってると思うから、頑張ってその答になるように穴埋めして?」

「どんな拷問パズルだよ…それ」

「最終的な答が分かってるだけ、おトクでしょ?」

ニッコリ笑顔で言われても。
ダメだ…やる気が萎える。

バタリと仰向けに転がる俺。

自動的に視界はグルリと部屋を見渡す形となったんだが。
…その視線の端に、何か明るい色調が映った様な気がした。

?…何?

色彩の位置を追えば、扉の片隅には小さな手形があった。
合板であろう室内扉にあるには、不自然な程に明るい色調のソレに何故か記憶を刺激される。

記憶を辿るとそれが、体育祭の準備の時にランボさんが押した、花弁に見立てた手形に良く似ている事に思い当たったのだが。

………掠れや、色褪せの見られるソレが、一ヶ月前のランボさんの物とは思えないし、何よりランボさんは学校に居た訳で…。

有り得ない筈の痕跡に、上手く形にならない疑問が心の片隅で渦巻いていた。

………何なんだ…この違和感は?





END
#08とリンクしています。
あ、15歳ランボさんに大人な本を与える悪い大人は山本氏を希望。もしくはロンシャン君で。


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