[携帯モード] [URL送信]

並盛中の日常/ある男子生徒の観察記録
一学期:補習

はじめてのほしゅう。

…『はじめてのおつかい』風に言えば気分も浮くかと思ったが…返って苛立ちを覚えてしまった。

放課後の教室に居るのは、教師と俺と牛柄くん、あとは他クラスの2人…教師含めて計5人だけ。

…うゎ…苛酷だ。
こんなに少人数だとは思わなかった。
もう、何て言うか…居た堪れない…そんな感じ。

約2時間の補習授業。
授業の内容は殆どマンツーマン状態での質疑応答。
教師1人に生徒4人だから正確に言うと違うけど。
一通りの講義が済んだところでプリントを渡され、

「教科書でも何でも、見ながらで良いから…このプリント3枚をやるように。
明日はこのプリントの中から抜粋して再試験をする。
…合格するまでエンドレスでこれを繰り返す…良いか、エンドレスだぞ。夏休みまであと4日間……ガンバレ」

…教師の言葉にも覇気がない。
受験生の担任でもある教師だから十分忙しいのに…受けに来てる生徒の方にやる気が見えないんだから、仕方ないのかもしれない。

…いや!俺はあるよ!やる気!

夏休みは塾で短期集中の夏期講習もあるんだから!
これ以上の勉強は俺のキャパ超えてるから!
何としても一発で合格しないと!

「今日はこのプリントを終わらせれば終了とする。
各自、終わったプリントを職員室に持参すること」

教師はそう言うと教室を退出した。
残されたのは生徒だけ。
俺と牛柄くんを除く2人は他クラスの生徒だったせいか、教師が退出して10分程すると同様にこの教室を出て行ってしまった。
…自分の友達にヘルプを求めるのか、単に場所変えか。

まぁ、確かに『此処でやれ』とは言ってなかった問題は無いのだろう。
ともかく残されたのは俺と牛柄くんだけとなった。

「…瀬戸口、瀬戸口…教えて?」

誰も居なくなった途端に、緑の目を輝かせ、にじり寄って来る牛柄くん。

…最初っからそれかい。

…とは言っても、牛柄くん、多少はやる気があるようで、数種類の参考書や辞書も持ってきている。
その中に伊英事典があるのが牛柄くんならでは…かも?

まあ、どうせ俺も同じプリントを消化するんだから、見たけりゃ見れば?

「瀬戸口がいつもより優しい…」

…おい。
見せるの辞めるぞ?

「いやいやいや!瀬戸口はいつも優しいデス!ありがとうございます!」

…いいや。もう。
せめて多少の努力をしてから見れよ?

「はい。了解デス」

しかし、補習&追試という緊迫感に欠けるよな…お前。
高校受験しないのか?
…イタリアに帰るとか?

「……未定。俺としては帰って働きたいと思ってるけど、もう少し勉強してこいとも言われてる」

カリカリとプリントを消化しながら、そう答える牛柄くんはちょっとだけ俺よりも大人なのかもしれない。
少なくとも俺の意識には『高校に行く』という選択肢以外は存在しない。

学歴が無いと就職がどうこうと言う前に、働く自分の姿なんて想像が着かない。
せいぜい想像出来て、コンビニでバイトして小遣いを稼ぐって程度で。
それくらい、『働く』っていう言葉は遠い存在でしかない。

牛柄くんは、それをごく当たり前の将来として捉えている。

日本に幼い頃からいて、ずっと本来の保護者とは離れて暮らしている。
様々な事情があるようだが、そういった事も影響しているのかもしれない。

「瀬戸口、どうしたの?」

手の止まっている俺に疑問を投げ掛ける牛柄くん。

「…いや、何でもない」

苦笑を返し、目の前のプリントに意識を戻す。
…牛柄くんが思っていたより大人で、驚いたなんて恥ずかしくて言えるかよ。




END


[*前へ][次へ#]

17/24ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!