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並盛中の日常/ある男子生徒の観察記録
一学期:修学旅行3

鬼怒川温泉。
泉質:単純泉
効能:打ち身、筋肉痛、疲労回復ほか。

…以上、ガイドブックからの受け売りでした。



温泉地と言えば卓球。

…誰が言い出したかは定かではないが、現在B組のかなりの人数が集まって勝ち抜き戦が開催されている。
折角、風呂入ったのに汗かいて…何やってんだか。

俺は早々に敗退して眺めるだけ。
牛柄くんは数回勝っていたが、現在は俺と同じく観覧側。
で、松尾が現在のタイトルホルダー。
…お前、バスケ部だろうが。卓球部の奴に勝つなよ。

「松尾…タフだねぇ…」

「…全くだ」

お互いボンヤリとしているのは、多分、他のクラスメート達の熱気に当てられたせいだろう。
こういうときに、テンション上げれる者の熱量は、そうでない者には過剰供給だよな…ハッキリ言って、持て余す。


……まあ、ボンヤリしていたから。

他の観戦中だった奴の取り落としたジュースを、牛柄くんが頭っから被ったのも不可抗力というか。

加減なく全身に浴びてしまったので、仕方なく旅館の浴衣を借りんだが。
…ビミョーに似合わないよなぁ…牛柄くんに浴衣。
日本人とは身体のバランスが違うよなぁ、としみじみ感じる。
身長はやや高め程度だが、手足が長い…腰の位置が違うよ…日本人とは。
着丈に合わせた浴衣が腕の長さに合っていないし、帯の位置も上にズレてる。

「何気に酷いこと言うよね、瀬戸口…そんなに変?」

「変ではない。似合わないだけだ…あえて言うなら、浴衣にそのアクセサリーはどうかと?」

「…あー…これね。
俺にとっては、お守りみたいなもんだからなぁ。
…付けてないと落ち着かないんだよね」

ペンダントトップに手をやり苦笑する牛柄くん。
よくよく見れば牛の角らしき模様が刻まれている。
そういえば、下着まで牛柄だったなぁ…。
どんだけ牛好きなんだか。

…と言うか、何処に売ってんだ…牛柄パンツなんて。

問い質したいような、神秘のベールに包まれたままの方が良いような…非常に迷う案件だ。



まあ、そんな感じで夕食の時間になり、大広間へ向かう俺達。
修学旅行メニューだから、豪華とは言えないけれど…それなりに美味そうな膳を見れば嬉しいものだ。

席順も特に決まっていないはずなのに何となく、牛柄くんと松尾が俺と並ぶ。
…何か、これまで接点の無かった俺達だけど『ランボさん』を介在して一種の運命共同体めいたチームと成りつつあるような…?

……気のせい…と思いたい。



「わーい。お刺身だ。俺、好きなんだよね」

「…蛸や烏賊の刺身を許容する外国人…」

「…変わってるよなぁ…やっぱり」

「あのさぁ…俺は5歳になる前から日本に居るの!
日本の食文化は基本的に何でもOKだし。
イタリア人は元々、蛸の生食してるしさ」

ボソボソと言葉を交わしていた俺と松尾に反論する牛柄くん。
氏より育ちってやつ?
…用例がちょっと違う気もする。

ともあれ『さあ食べよう』というところで……まぁ、アレだ。
最近ではすっかり馴染んでしまった現象が起きる。

……ランボさん。
本日2回目ってのは想定外だったぞ。

「ぐす…ランボさんは…だもんね…」

………泣いている事はよくあるが、こんなにズタボロになっているランボさんは、あまり見たことがない。
いつものツナギもランボさん自身も、泥だらけの傷だらけ。

5歳の子供がこんな状態になるってどういうことだよ!?
ただ転んだとか、友達とケンカしたってレベルを超えてるぞ!

「…ランボさん…怪我は大丈夫か?」

手元にあったおしぼりでランボさんの顔や手を拭ってやる。
…良かった、深い傷は無いようだ。

「つべたい…あ…せとぐちだ…ここどこ?」

おしぼりの冷たさに文句を言うランボさん。
キョロキョロを辺りを見渡して、いつもと違う雰囲気に戸惑っているようだ。
「今、夕食中だ。ランボさんも何か食べるか?」

「あ!オレンジいろのランボさんすきだもんね!」

…刺身の中でウニを指差すランボさん。
幼児の味覚にしては変わってるなぁ。

ま、良いか。好きだっていうんだから食べさせても。

「ほら、俺の分もやるぞ」

……松尾。お前、ウニ嫌いか。
ランボさんが好きだからあげるというより…厄介払いだろ、それ。

「…オマエいいやつ?」

「おう。優しいお兄さんだ」

……ランボさんの現金さには笑えるが、松尾…お前も相当だな。
自分で言うな、まったく。

ま、ランボさんが喜んでいるので良しとするけど。
3人分(松尾と俺と牛柄くん)のウニを完食して時間となる。

ランボさんが泣き止んで、俺的には一応満足。
………ランボさんの怪我については非常に苛立ちを覚えているがな。

で、元に戻った牛柄くんだが。

汗だくに荒い呼吸。
殆ど開(はだ)けた浴衣。
涙目になっている姿は…まぁアレだ。

男でなかったらあらぬ事を想像される姿ではある。

…………何が起きたんだか。

まぁ…取り合えず、折角だから温泉にもう一度入っとけ?
今のお前の為にあるような効能だから。





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2巻:入江氏登場の回。


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