川蝉の泣く音色
あの後、人目につく前に茜を後ろに積んでバイクを走らせた。
今は俺の部屋で、テーブルを挟む形で向き合って座っている。
「ごめん」
「何が」
母が持ってきた紅茶は既に冷めている。
俺のジャージに着替えた茜は、サイズが合わないせいか、いつもよりか細く見えた。
「あんなこと言って、だよ」
「気にしないでいいのよ、そんなの」
彼女は笑った。
そして彼女は冷めているのに紅茶をふうふうと息を吹き掛けてから啜った。
何故笑うのだろう。
売春なんて人には知られたくないはずなのに。
「どうして売春なんか」
「生きるか死ぬか、その極限で生きている私にはそれしかないの」
かちゃりとテーブルにカップを戻すと、茜は俺の瞳を捉えて離さない。
「私の身体はどぶねずみのように汚いよ。どんな性病を持ってるのか知れないしね。いえ、心も汚れているの」
売春することに、嫌悪感はないのだもの、彼女は真っ直ぐ俺を見つめてそう言った。
雨だというのに、外から川蝉の鳴き声が聞こえてくる。
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