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川蝉の泣く音色


 丘の上は思ったよりも風が強く、前を行く彼女の灰色の髪を乱している。

「ここね、父さんが元気な時によく来てたの。って言っても小さい頃だけなんだけどね」

 彼女はこちらに振り向くと、そう言ってその場に座り込んだ。
その隣に腰を下ろし、持ってきたサンドイッチの入ったプラスチック容器を膝に広げた。

「私が病気だって、それさえ発覚しなければ今もまだ父さんは元気だったのかもしれないけれど」

 食パンにレタスと分厚いハムだけを挟んだ大きな二つのサンドイッチのうち、一つを彼女に差し出す。

「ありがとう」
「病気なの?」

 サンドイッチにかぶり付き、口内に含みながら彼女に訊ねてみた。

「ええ、まあ。自分のことだっていうのに、私は病名を知らないけどね。
 父さんが言うには絶対に治さなきゃいけない病気だそうよ」

 サンドイッチにかぶり付こうとした手を止めて彼女は無表情に言うと、何もなかったかのように美味しそうにそれを頬張りはじめた。
 その一瞬の表情を見落とさなかった俺は、病気について訊かれるのが嫌なのかと思ったがこれ以上は口に出せなかった。






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