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川蝉の泣く音色

「有難う御座いました」

 いつもは二人揃って店を出るのに、今日は珍しく彼女の父親が先に帰ったようだ。
 茜というグレーの髪色の女の子はいつも昼時に病服らしい着衣の父親と一緒にこの店に来ては、父親だけに食事を採らせ、自分は何も食べずに帰ってしまう。
 この店の目と鼻の先が総合病院の為、患者の客は結構多く、彼女のように病服を着た人を連れて来る客も多い。

「すいません」

 彼女が手を上げた。
 店員を呼ぶと言うことは珍しく何か食べる気なだろうか。

「はい。ご注文でしょうか?」

 ハンディを広げてしゃがみ込み、彼女を見上げる。

「えっと、お水下さい」
「え? ああはい。お冷やでよろしかったですか?」

 てっきり食べ物を注文してくるものだと思い込んでいた俺は肩透かしを食らって、思わず聞き返していた。
 すると彼女も肩透かしを食らったような顔をして俺を見た。
 初めて間近に彼女の瞳見た。
 しばらくの間、俺は彼女の瞳に見魅っていた。
 髪色と同じ灰色の瞳は透き通るように美しく、長い睫毛さえもが灰色で美しかった。

「私の顔、そんなに変ですか?」

 はにかみながら小首を傾げた彼女に、俺はようやく我に返った。

「あ、すいません。そんなことないでよ綺麗です」
「そんなことないですよ」
「髪色は自分で染められたんですか?」
「……さあ知らないわ」

 何か気に障るようなことでも言ったのだろうか。
彼女は刹那、眉根を寄せたがまた笑顔になった。

「すいません。何か気に障るようなこと言ったみたいで。
 あの、この後暇ですか? 俺もうバイト終わるんで飯でも」
「いいですよ」

 いけるか、と思ってナンパしてみたら意外な返答にまたまた肩透かしを食らった。


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