夜桜が不気味だった。
「ああそうか僕は」
夜桜に導かれるように、気づけば少年はそこにいた。
「そうか僕は、愛してたんだ」
夜桜を濡らす初夏の雨。少年の頬を濡らす。
「君を、ひどく愛していたのに」
夜桜は風に靡く。まるで少年を嘲笑うかのように、けれどどこか悲しげに。
「もう、会えない」
夜桜はもう散り始めていた。春の終わりを告げる雨が、少年の恋に終止符を打とうとしている。
「あの時に伝えていれば、今も君はここに、いた?」
夜桜は花びらを散らせ、泣いていた。全ては遅すぎたのだと。少年の愛する人はもう、この町にはいなかった。
――私、東京に行こうかなって。
それは突然の告白だった。桜の蕾が膨らみ始めた頃。
――あぁ、そうなんだ。
少年は彼女を止めなかった。
嫌だなんて、どうして少年に言えよう。彼女に自分の気持ちすら伝えられなかった少年に、何が言えただろう。
「ずっと、ずっと、君のこと好きだったんだ」
夜桜は散り、春は終わり、少年の恋も終わり、夏が来ようとしている。そんな町の公園で少年は泣いた。
END.
10 0331