そう考えてみれば、
たとえば、イチゴのショートケーキを一口も食べずに落としてしまったとして、残念で仕方ない気持ちになるとする。
でも、落ちたそのケーキを蟻が食べれば、それは蟻にとって幸福である。
そう考えてみれば、ケーキを落としてしまって残念な気持ちも、どこか少し温かな気持ちになる。
決して無駄ではない、そう思えるのだから。
だから、この件についてもそう考えてみる。
「もう、浮気しない?」
私との関係が不倫だったなんて! そんな怒りと悲しみが入り交じった殺伐とする感情を整理してみる。
私と付き合ったことで、今、彼の家庭は非常にまずい状況らしい。
だから私と別れたいと、彼は頭を下げた。
独身だと嘘をついていたこと、家族を捨てれず、私を捨てることに罪悪感を感じている。
なら、もう同じことは繰り返さないはず。
「ねえ。もう浮気しない? 不倫しない?」
「ああ……すまんかった」
私を犠牲に彼が家族だけを見ると誓うのなら、私が彼と出会ったことに意味はあったはず。
「もう繰り返さないでね。絶対奥さんと仲直りするんだよ? さよなら」
辛いのは今だけだから、自分に言い聞かせ、私は彼に別れを告げた。
もう繰り返さないでね、お互い傷つくんだから。
それに、あなたの奥さんも。
涙は頬を伝うけれど、もう殺伐とした感情はなかった。
ただ純粋にあの人がもう道を踏み外さないことを願いながら、私との時間が無駄ではなく、少しはあの人のために役に立ったと信じることしかできなかった。
END.
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マエツギ
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