[携帯モード] [URL送信]
ありがとうが言えないまま

 愛くるしい君のくりくりの瞳に吸い込まれるように、私は君を見据えた。
でも君は眠そうに、めんどくさそうに欠伸をする。
 温かい日には日向ぼっこをして、寒い日はこたつに潜って昼寝。
天気がよければ散歩に出かけて、雨の日は窓から外を眺めている。
そんな自由奔放な君が好き。

「好きだよ」

 ぎゅうっと抱き締めれば、ふにゅうと息を吐き出し、苦しいよと笑う。
 どんなに私が好きよと言っても、君はいつも頭の上にはてなを浮かべ、首を傾げるだけ。
 でも、君はいつだって誰よりも私の傍にいてくれる。
無口だけど、君は私の傍にいて寂しさを感じさせず、絶えず温もりを与えてくれる。


 そんな君は私より随分と歳を取るのが早かった。

「ありがとう」

 そう言ったときにはもう君はこの世界から消滅していて、空っぽの肉体だけが残されていた。
 いつも傍にいてくれたから、それが当たり前だと思っていた私。
君が死んでしまうまで、それが当たり前じゃないことを忘れていた。

「ごめん……」

 ありがとうと伝えた時にはすでに君は──
 もう傍にはいてくれないのね。
どんな男よりも猫である君を愛していた。
 私は君に、恋してたんだ。



END.
10/1


マエツギ

第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!