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叶わない恋

「知ったことか」

 王女はつまらなさそうに頬杖をつき、執事の持つ皿からピンクのマカロンを一つ取り上げた。

「知ったことか、ではありません。貴女様がお選びにならない限り、戦争は終わりませんよ」

 麗容を持つ王女は次期王子となる二人の貴公子から婚約を申し込まれた。
二人の貴公子はどんな結果であろうと、王女が選択に不満は持たないからどちらかを選んでくれと言い出した。
だが、王女はつまらなさそうに、

「どうでもいい」

 その時も彼女はマカロンを食べていた。
それから貴公子たちは自分の国を使い、戦争を始めてしまったのだ。
 執事は困った顔をしながら、いつものように小さくため息を漏らし、皿を引く。

「王女、それではあの戦争は終わりません。貴女様がよくても、あの戦争では何の関係ない尊い命がたくさん消えているのです」
「つまり、その尊い命が消えてるのは、あたしの所為だと、言いたいのねあなた」

 更に執事は困った顔をし、やがて呆れたように自分が持つ皿からマカロンを一つつまみ上げる。

「この赤いのマカロンを食べるためには他のたくさんのマカロンを捨てなければなりません。でもこの赤いマカロンを食べなければ他のマカロンは捨てなくてもよいのです」

 つまり、そこで執事は口を閉ざした。
つまみ上げたマカロンを皿に戻し、王女の瞳をまっすぐに見据える。

「貴女様が悪いわけではありません。貴女様を我が手にとばかりに戦争を始めた貴公子が何よりも勝手なのは事実。でも貴女様の一言で戦争は終わるのです」

 王女は執事の真っ直ぐに自分を見据える瞳に、どきりと頬を赤らめると、すぐに悲しげに目を伏せた。

「あたしがあのバカ二人のうちの一人と結婚すればいいのね」
「そうですね」

 悲しげにする王女のか細く白い手を握り、執事はそのまま彼女の手の甲にキスを落とした。

「あたしの気持ち、知っててそんなこと言うのね。酷だわ」
「貴公子二人の国民は貴女様の所為で戦争が起こったと、貴女様を憎むことでしょう。そしてこれ以上、犠牲を出してもいけないのです」
「そうね。でもあたしはあなたにわかっていてもらえればいいの……」

 伏せた瞼を押し退け、はらはらと涙が王女の頬を濡らし、彼女の手を握る執事の手に溢れ落ちた。
 そんな彼女に執事は無言で接吻を交わした。
 王女はゆっくりと瞼を開け、鼻が当たってしまいそうなほど近くにある執事の顔を見ると、額と額を合わせた。

「愛してるわ」
「ええ、私もです」

 それから二人は大きなベッドの上で乱舞するように愛し合い、何度も何度も果てた。
 翌日、王女を取り合う戦争は終焉を迎えた。



END.
9/4


マエツギ

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