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待ち人2

 春、あたしとあなたはまた会う約束をして別れた。
それからしばらくして、別れてしまった。
 いつも彼は優しくしてくれたのに、あたしったらね。
 原因は彼とのメール数が減り、寂しくなり苛々したあたしはメールなんかしなくても平気、なんて言ってしまったからだ。
あの時、素直に寂しいと言っていればあたしたちはまた違った結末を迎えていたのかもしれない。
 メール数が以前より減ると、彼は代わりに毎日のように電話をくれた。
電話をかけてきてくれるのはあたしのためと知りつつもあたしは素直になれず、素っ気ない態度をしてしまう。
自分からメールなんかしなくても平気なんて言ったくせに、本当はかまってほしかった。
だから素っ気なくして、おれが好きか、という質問に普通と答えてしまった。
本当は愛していた。でもあたしの口先からはひねくれた言葉しか出なかった。
 それが決定的な破局の原因。
 別れてしばらくすると、あたしもバイトが忙しくなり、時折彼を思い出すことはあったが、ほとんど忙しい日常によって薄れていった。


「ごめん。お金貸してほしい」

 別れた男に電話越しに頭を下げて金をせびる。
プライドを捨ててでもあたしはそれをせざるを得なかった。
何よりも彼の声が聞けるのが少し嬉しかった。
 めんどくさそうに対応され、勿論断られた。
それに対してあたしは何の感情も抱かなかった。
そもそも彼に借りる気もなければ、借りられる気もしていなかったからだ。
 あたしはその後金に困り身売りをして荒稼ぎをした。
勿論バイトもしながら。
 売春という犯罪に足を踏み入れる度に後悔と恐怖に苛まれ、その都度金を貸して欲しいという口実で、救いを求めて彼に電話をする。勿論事実は伝えないが。
 それが五月のことで、別れて二ヶ月が過ぎていた。


 五月中旬になって、彼から寄りを戻さないかと言われた。
その時の嬉しさと救われた気分は、それが過去となった今でも鮮明に覚えている。
 でもあたしには売春という犯罪者のレッテルがあり、彼が売春を何よりも嫌ってたことを知っていた為、すべてを打ち明け、断った。
 泣きながら文章を打ち、その後彼からのあたしを罵倒する文章を読みながらまた泣いて。
 身売りした理由は言おうとした。
でも彼は何の聞き耳も待たずに罵りの言葉がほとんどで会話にならず、あたしは真実を伝えることを諦めた。
 彼は今でもネットであたしを見かけると、時折罵りの言葉を向けて来る。
 言いたいこと、話し合いたいことは山ほどあったが、今はもう何もない。
 あたしが自殺か売春かを迷ったことも彼は知らない。
 でもどんな事情であれ、あたしが売春に身を染めたことは何よりも彼を傷つけたことなのだろう。
 売春を打ち明けてしばらくすれば、泣きじゃくり、辛いとあたしにメールをくれた時もあった。
足を洗えと言ってくれたこともあった。
なのに素直じゃないあたしだから、汚れたどぶねずみなんだと悲劇に酔いしれ、彼を苦しみから救えず、寧ろ救ってもらおうと必死だった。
 何の事情も知らない彼の方があたしよりも辛かっただろう。
人一倍傷つきやすい子だったんだもの、その傷はさぞかし深かったのだろう。
 だから、その傷が憎しみへと変わり、あたしを罵倒したのかもしれない。
そんなことにも気づけなかった当時のあたしは、彼に過剰に反応し、あたしたちは互いを罵倒しあった。
 罵りの言葉を文章にしながら、彼はどんな表情をしていたのだろう。
 あたしは涙目でそれをしていたけれど。
 悔しくて泣いたこともあれば、心底傷ついて泣いたことも。
でもそれは彼も同じだったようで、あたしが売春をしていると打ち明けた後、彼は自分を責めて泣きじゃくっていたと、ほとぼりがさめてから友人に聞いた。
 歯がゆい思いをし、涙を流した彼は、あたしが売春をしたと打ち明けたあの時もまだ、あたしを愛していてくれた。
 でももう二度と会うこともなければ関わることない。
 あたしは彼に二度と食い下がらない。
 彼には彼女がいて、あたしにも彼氏がいる。
 この恋の終わりは、愛憎にまみれたものだった。

 あたしの今の彼氏はあたしをよく知っていて、売春をやめさせてくれた人。
 愛してる。
 昔の彼も、あたしは好きだ。
弟のように思えて、可愛らしくて、幸せにねって願える。
 どんな酷いことを言い合っても、一度愛した者を心底憎むことはできないのだ。
 恋愛感情はなくても、相手の幸せを願える感情は抱ける。
 有り難う、昔の最愛の人。
 どうか幸せにその人生を過ごして下さい。



END.
8/30


マエツギ

あきゅろす。
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