どうして帰りが遅いの。
どうして携帯電話ばっかりで私にかまってくれないの。
そう思いつつもそれをあなたに詰問することは躊躇われる。何故ならその答えを聞くのが怖いからだ。
だが、それを訊かなければ私は自滅してしまいそうだ。だって自分の存在意義が曖昧になってしまう。何故あなたと暮らしているのか、わからなくなる。
知りたい、でも問う勇気がない。
けれどそれを知って、それから私はどうするのだろう。気まずくなって、それからそれから……。破滅。
ならば知らない方がいいに決まっている。ならば訊かない方がいいに決まっている。
あなたの携帯電話にロックがかかったことも、あなたの服にこびりついたどぎつい薔薇の香水の臭いも、あなたの首筋の吸引された跡に出来る痣も、知らない方がいい。
問い詰めてはいけない。問い詰めたら最後、私はあなたを失うのだろう。
でも、問い詰めなくとも私の心はもう限界なのです。
End.
10 0603