命の意味を知らないひと
ぐっ、と手に力を込めるけれど、彼は表情を僅かに歪めただけで、なんだかあたしばかりがもがいているみたい。
「むくろ」
名前を呼んでも、何ですか、と柔らかく笑うだけで、抵抗したりとか苦しがったりしてくれない。この人はほんとに実体なの、と疑いたいくらいだ。
「くび、絞めていい?」
「もう、絞めてるじゃないですか」
「うん」
くふふ、と蠱惑な笑み。なんで、と聞いてもきっとはぐらかされちゃうな。
「…ね」
「なんですか」
「どうして、抵抗しないの」
くるしくないの、くやしくないの、こわくはないの?なんて疑問がぐるぐる廻る。このままだと、むくろ死んじゃうよ。あたしに殺されちゃうよ。
「別に構いませんよ」
「どうして?死ぬんだよ?」
「はい」
「こわくないの?」
「はい」
「いやじゃないの?」
「はい」
「…かなしくないの?」
「ええ」
どうしてどうして。
「じゃあ、あたしがむくろを殺しちゃっても、いいんだね?」
「くふふ、どうぞご勝手に?」
なんでだ。なんでだ。
「……ばいばい」
*
しろい、しろいむくろの肌を撫でる。あたしとは違って色素が薄くて、とても白い。だから昔、むくろはアルビノなのかなとかちょっと思ってた。実際、どうなのかは知らないけど。
「どうして」
「……」
「殺さなかったんですか」
だったらあたしも聞きたい。なんで、諦めてるの、抵抗してくれないの。あたしなんか取るに足らないとかそんな感じなの。
「生きたいと、思ってはないの?」
「さあ、どうなんでしょうね」
僕はただ巡るだけですから。
と言った後むくろは笑って、やさしくあたしの手を撫でた。それはまるで汚れた手を浄化してゆくかのように。(もしくは、責め立てるかのように。)
ねえ、むくろ。あたし、なんにも解ってないって、思ってたけど、それはあんたも同様だよ。あんたもなんにも分かってないね。ばかな、子。
ああ、そんなふうに哀しげに微笑まれたら、抱きしめたくなるじゃないの。
命の意味を知らないひと
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090704.
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