命の意味を知らないひと


ぐっ、と手に力を込めるけれど、彼は表情を僅かに歪めただけで、なんだかあたしばかりがもがいているみたい。


「むくろ」


名前を呼んでも、何ですか、と柔らかく笑うだけで、抵抗したりとか苦しがったりしてくれない。この人はほんとに実体なの、と疑いたいくらいだ。


「くび、絞めていい?」

「もう、絞めてるじゃないですか」

「うん」


くふふ、と蠱惑な笑み。なんで、と聞いてもきっとはぐらかされちゃうな。


「…ね」

「なんですか」

「どうして、抵抗しないの」


くるしくないの、くやしくないの、こわくはないの?なんて疑問がぐるぐる廻る。このままだと、むくろ死んじゃうよ。あたしに殺されちゃうよ。


「別に構いませんよ」

「どうして?死ぬんだよ?」

「はい」

「こわくないの?」

「はい」

「いやじゃないの?」

「はい」

「…かなしくないの?」

「ええ」


どうしてどうして。


「じゃあ、あたしがむくろを殺しちゃっても、いいんだね?」

「くふふ、どうぞご勝手に?」


なんでだ。なんでだ。



「……ばいばい」





しろい、しろいむくろの肌を撫でる。あたしとは違って色素が薄くて、とても白い。だから昔、むくろはアルビノなのかなとかちょっと思ってた。実際、どうなのかは知らないけど。


「どうして」

「……」

「殺さなかったんですか」


だったらあたしも聞きたい。なんで、諦めてるの、抵抗してくれないの。あたしなんか取るに足らないとかそんな感じなの。


「生きたいと、思ってはないの?」

「さあ、どうなんでしょうね」



僕はただ巡るだけですから。



と言った後むくろは笑って、やさしくあたしの手を撫でた。それはまるで汚れた手を浄化してゆくかのように。(もしくは、責め立てるかのように。)

ねえ、むくろ。あたし、なんにも解ってないって、思ってたけど、それはあんたも同様だよ。あんたもなんにも分かってないね。ばかな、子。

ああ、そんなふうに哀しげに微笑まれたら、抱きしめたくなるじゃないの。




命の意味をらないひと



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090704.



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