サニーディサタデー





蝉がじわじわと悲鳴を上げていた。トレインにとって夏というものは、何度過ごしても好きにはなれない季節だった。カラリとした日であってもじめっとした日でも、兎に角暑いのには耐えられない。夏のためだけに夜間部に移ろうとわりと真剣に考えた事もあるが、そうするとひとつ、困ることが起きる為に断念した。簡潔に言うならば、つまらなくなるから。これに尽きる。
まぁ、そんな暑さに耐え抜かなければならないのも今日で最後だろう。試験を終えたこの放課後からは待ちに待った長期休みに突入だ。今年の夏の計画はずばり、去年・おととしに続けて引きこもり、の予定だ。この暑い外へわざわざ飛び出して涼しい顔で颯爽と街を往く、そんな人間、頭部のどこかのネジがイってしまっているのだ。それが生をうけて23年かけての彼の結論だ。
しかし世界とは広いもので。この広い大学のキャンパス内には、彼の怠惰な思いも夏の日差しにも何の恐れも抱かない人間も、勿論存在した。それも彼のごくごく身近に。

雲一つない晴天と目に痛い太陽。どうしてこうも毎日強い日差しの下でそこまで白い肌をしていられるのだろうか。トレインには甚だ疑問だった。
太陽でなく人を見るだけでここまで目にまぶしいとは思わなかったからだ。さらりと藤色の髪が歩くごとに流れる。その下の白いすべらかな肩が目に入らないだけでもよしとしようか。
なぜならば。健全な男であれば、まぁ、このもどかしい気持ちに気づいてくれるのではないだろうか。ため息交じりに完結づける。するとその肩がくるりとこちらに向き直った。


「トレイン?どうしたの」


大きなアーモンド形の瞳でトレインを正面から見つめてくる彼女はリンスレット=ウォーカー。入学と同時にこの学校の、いわゆるマドンナに名乗りを上げた、才と色とを兼ね備える絵に描いたかのような「美女」だった。


「いんにゃ、暑くてだれてんだけ」
「あー…男って不便よね。アンタも短パンってキャラでもないし」
「全くだ。何着ても許される女が羨ましい」
「履く?ミニスカ」
「遠慮しておきます」


じゃあ我慢して、チャッチャと歩く!
彼女お得意の満面の笑顔で腕を引かれていやな顔をする男はまずいないだろう。トレインにしてみても、なんだかんだで似たようなところであって。暑い離れろと小言は言うものの腕を振り払うこともなければ顔に不快を表わすこともなかった。その代わり、周囲にはいつものように鋭い視線を注ぐ。
リンスが入学して3年経つが、その間学内人気ではまずトップを譲らず他の追随を許さない学園のヒロインだ。ファンクラブがいくつあるかなど、誰一人として把握しきれていないまでの人気っぷりはトレインと伯仲するものがある──が、その存在を自分の事には点で疎い当の本人達は知る由もない。
そんなどこぞのリンスレットファンクラブの会員達が、今日は特に熱い視線でリンスを眺めトレインの隙を見計らっていた。

(何なんだ?一体)

疑問に思い、特に熱心にこちらを見ていた一人の男にきつく視線を寄越すと、妙に悔しげな顔をして去っていく。いつも以上に肩を落としているように見え、しかしそれでも未練たらしめているように見えたのははたして気のせいだろうか?
ふとリンスを見下ろすと、彼女の翡翠色の目と出逢う。眉を寄せてひそめた声で訊ねてきた。


「ねぇトレイン」
「あ?」
「なんか、熱視線感じるんだけど、気のせい?」


護身術を習っているからか女の勘からなのか、鋭く周囲の様子を察した彼女は言った。肯定しようかと思ったトレインだったが、口を半分開いたところで「いや」と否定した。


「別に何も感じねえぜ?気のせいだろ」
「そう?なんかすっごい居心地悪いんだけど」
「お前、普段ナルシストアレルギーだのってギャーギャー騒いでるくせに、自分が一番 自意識過剰なんじゃねぇの?」
「何よそれ失礼しちゃう!お昼、パスタ奢ってあげようと思ってたけど、やっぱりナシね」
「げ、ジョークだろうが!勝手に不安がってっから安心させてやろうと思っただけじゃねぇか」
「うるっさい。所々まだ嫌味な節が残ってるんだけど?」
「へーへー申し訳ありませんでした」
「もういいわよ。ジェノス誘って行くから」
「…は?ちょ、待てってオイ!」


慌てて声を上げるとリンスは赤い舌を出して踵をかえし走り出してしまった。
トレインは振り返らない捻くれたお嬢さんの正面がいたずらな笑顔であることを予想しながらもその後を追いかけた。なぜ最初に出てきた名前があの男なのかというのが腑に落ちないが、本当にこの辺りにかの男がいたら、堪ったものではない。傍に並ぶとやっぱり笑いを堪えていた彼女が足を止め、少し高い彼の右肩に両手を乗せて頬にキスをしてきた。


「これで許したげる」
「お前な…」
「ふふ。ごちそうさま」


ぺろりと舌を出して悪戯に微笑むリンスをじとりと見てやる。満足そうに鼻歌なんて奏でながらもう一度緩く組んできた腕に、トレインは今度は何の小言も付けずにそのままにしておいた。

(まぁ、いいか)

色々と気になる事はあるが、彼女が隣で楽しそうに笑っている。それだけで今は十分だ。彼女の軽やかなメロディにのって、日の照りつける白のキャンパスを後にした。








大学近くのお決まりの喫茶店へ入ると、涼しい空気に迎え入れられた。トレインは席に着くなり出された水を一気に飲み干した。食事中も話しが多いリンスと、それに相槌を返すトレインというスタンスもやはりいつもの風景だ。メインで話しながら食べているリンスの前のクリームパスタはまだ半分程残っていて、大盛りのランチセットを頼んだトレインはあと数口で完食といったところだろうか。
それでね、あの講師ったら、と次に教官の話を持ちだそうとしたリンスが言葉を止めた。どうしたのかとトレインが見上げれば、少し眉を下げたリンスがテーブルの下で携帯を確認していた。


「リンス?」
「あ、うん。ごめん、ちょっと」
「ああ」


いつまでも止まないらしい携帯のバイブ音に、リンスは一言断り席を立つ。ちりん、と携帯にひとつだけ付けられた、ストラップが揺れた。まだ残っているパスタを指し「食べないでよ」とトレインを一睨みするのを忘れず、電話を耳に当てながら店のドアを出た。こちらに背中を向けていることを確認しながら、トレインはそっとフォークを向い席のボール皿に伸ばす。


「ダメと言われるとやりたくなるのが、人のサガ。…なーんてな」
「いけないなぁ。レディの食べ物をコッソリ味見だなんて」
「!」


ぎくりと手を止めまっすぐ背筋を伸ばした。背後から聞こえた声に口元が不自然に歪む。トレインはそろそろと後ろのソファを振り返った。まず目に入ったのは、鮮やかに彩られ開かれた赤のシャツ。少しずつその色から目線を上げていけば、ああ、やっぱり。見覚えのあるその顔を認識して重たい息を吐き出した。


「やぁどうも。ハートネット君」
「やっぱテメーか。変態ストーカー」
「えー。俺、男には興味ないよ。人違いじゃないかい?」
「うるっせぇ。アイツに釣られてんなら、俺にも付きまとってる事になるだろうが」


ああなるほどね。
ジェノス=ハザードはにっこりと笑って優雅にコーヒーを啜った。
彼はトレイン達の通う大学の付属高校で教員をしている、らしい。先日、同校に教育実習に行ったリンスとそこで面識ができて、以来 妙に親しげに彼女に近寄ってくる、特に厄介な男──とトレインは認識していた。ただ遠目から憧れるだけのファンとはまた違うジェノスに、トレインの警戒心は最大値である。
当のリンスはというと、”実習の頃にお世話になった頼りになる先生”という認識らしい。ジェノスの口説きを悉く冗談と捉えており、お陰でジェノスからのアプローチは実習が終わった現在でも、未だ途絶えない。中々に神出鬼没なその男は得体が知れず、更に軟派でやたら馴れ馴れしい性格も相まって、はっきり言ってトレインの”苦手”に当てはまる人物だった。嫌な時に、嫌な奴に見つかったものだとうんざりしながら一応尋ねる。


「で、何の用だよ。ジョナサン」
「いやいや、ジェノスね?彼女を横取りしようとしてる男を覚えたくないのはわかるけどさ」
「面倒くせぇ。どっちでもいいだろ」
「ま、ちょっと寂しいけど覚える気ないならいいんだけどさぁ。俺もヤローのプロフィール詳細を覚える気はさらさらないし?でもさ、人の名前くらいは…」
「お前についての情報は、何一つ覚える気はねぇ」
「うっわぁ、きっつー」


けらけらとひとしきり笑った彼は、白磁のカップを同じ皿に戻してソファに肘を置いて振り返った。その眼は妙に嫌味っぽくトレインのテーブルを横目に見ている。


「てゆーかさ。デザートもない結構質素なお昼みたいだけど、これがお祝いランチなの?あ、どっちかっていうとディナーに力入れるとかそういう感じ?」
「は?お祝い?」
「だーかーらー、リンスちゃんの……‥あ」


何かに思い当った様子のジェノスを怪訝に見遣ると眉根を寄せて、ついでにソファから身を乗り出し耳元に寄ってきた。思わず「気持ち悪い」と本気で嫌がり払い除けようとしたトレインに構わず口元に手をやって彼は少々声を抑えて言った。


「お宅、まさか知らないの?今日が何の日か」
「今日が何の日か?」


先の『リンスの、』の言葉から不覚にも反応してしまった自分にトレインはしくじったとばかりに舌を打った。軽く流してさっさと追い返そうと思っていたのに。つい合わせてしまった目線にげんなりする。ジェノスはようやくまともに目を合わせてくれたと満面の笑みで応えてきた。


「やっぱり知らないんでしょ。あーあ、リンスちゃんかわいそ」
「だから何だっつーの。勿体ぶんな」
「あはは。俺、そんなにイイヒトじゃないもん。教えない」
「……‥」
「ごめんねお待たせ…‥え、ジェノス!なんでこんなとこに居るの」
「やっほー、リンスちゃん。久しぶりだね元気してた?」


戻ってきたリンスが声を上げ、久々の再会に笑顔を浮かべようとした。しかし腕を引かれ、作りかけられた笑顔は驚きに目を見開かれる。掴まれた腕を引く手を辿った先には厳しい顔をしたトレインがいた。トレインはその炯眼でジェノスを暫く見据えてから立ち上がった。


「行くぞ」
「え、ちょ、トレイン何よいきなり…!ジェノスごめん!またね!」


戻ってきてからの急な展開に混乱気味のリンスはトレインに連れられるままテーブルから離れ、更にさっさと店を追い出されてしまった。トレインはもう一度ジェノスに目線をくれ、挑発するように赤い舌を出してから出て行った。残されたジェノスは双眸を瞬かせ苦笑を浮かべた。

(……あーあ、やっぱり時間ずらすべきだったかぁ)

彼女を想って選んだ小ぶりの薔薇の花束と丁寧に包装されたペンダントケース。それらを眺めて今度は柔らかく口を緩めた。
見てしまった光景に、どうしても我慢がならなかった。引く手数多な人気者の彼女が自ら待ってまで選んだ男。ふたりの仲睦まじい様子が羨ましかった。だからつい、静観してタイミングを見計らって掻っ攫おうとの計画をご破算にしてまで乗りこんでしまった。その上、知らなかったといえ、アドバイスする形になるだなんて以ての外だ。
悔しいけれど、今年は負けだ。


「……ってか彼、金払ってなくない?」


視界に入ってしまった後ろの席の伝票。ジェノスは、うなだれて苦笑をひとつ。見なかったふり、できればいいが店員は自分たちの遣り取りをしっかり見ていたから逃げられない。
非常にやる瀬ない思いをそのままに、ゆったりとした動作で口にカップを運んだ。喉を通りぬけた、砂糖もミルクも入らないホットコーヒーは、冷房の利いたこの冷たい部屋に丁度よく、苦みは今の気分に同調した。








トレインの手に引かれ、さっきの店はどんどん離れていく。夏が苦手で、極力外に出たがらないトレインにしては珍しい。いくらジェノスがいたからといってさっさと店を後にするだなんて。いつもなら自分が先に居たんだからどこかへ行け、という横柄極まりない態度なのに。
リンスは疑問に眉をひそめるものの、強引なその腕を振り払えずにいた。不快な筈なのに、嫌ではない。自分に正直な彼女だが、浮かんでしまった矛盾した気持ちに自身が付いていけていなかった。
トレインの手とウニ頭とを交互に見て、少しためらった後で口を切った。


「…トレイン、どうしたの?」
「………」
「ジェノスとまた喧嘩した?」
「……………」
「ねえ、聞いてる――…っ!」
「リンス」


ぴたり、とようやく足を止めたトレインの背に思い切りぶつかった。反射で鼻頭に手をやって睨みつける。苦言を呈そうと口を開こうとすると、これまたようやっと彼が口を開いた。くるり、とリンスに向き直ったトレインは彼女の肩に手を添えてぐっと下に押し込んだ。すとんとそばのベンチに半ば強制的に座らせられる。


「何よ…」
「ちょっと、待ってろ」
「はぁ?ちょ、ちょっと、トレイン!?…もう!」


言うなりさっさと駆けて行ってしまう。今からその背中を追いかけても追い付くことはできないだろう。彼の逃げ足の速さは十分に承知している。
ひとり残されて途方に暮れたリンスは背を丸めて頬杖をついた。

(せっかく、誕生日なのに)

悲しげに目を伏せる。
たくさん資料や参考書を入れられるからという理由で購入した大きめの鞄の中は手紙やプレゼントでいっぱいだった。今は目的違いのそれは、ずっしりと重たく肩に負担をかけていた。電話にメールにひっきりなしに鳴る携帯はもう電源を切ってしまった。正直なはなし、どれもこれもあまり嬉しくない。学校から早々に退散したのもこの為だ。
それはただ、トレインといたかったから。いつの間にか機嫌が悪くなってしまった彼を思い出してまた気が滅入ってしまった。
うまくいかないなぁ、なんて。
大学にやってきて今年で2年目になる。入学し間もなくして出会ったトレインとも2年目の付き合いだ。去年と今年と、この日だけは無理にでも彼を引きずり出していた。
トレインに自分の誕生日は話していない。なぜかと問われれば、「なんとなく」としか言えない。「おめでとう」と言って、綺麗なモノや華やかなモノを贈ってくれるトレイン、なんて面白すぎる。むしろ頭でも打ったんじゃ、なんて不安になるかもしれない。
しかし何より、どうでもいい事などすぐに忘れてしまう彼に誕生日を話して、期待して忘れ去られて、を毎年繰り返すのも想像に容易かったのもある。強要して精神的な重荷になるなんてまっぴら。それ以上は望まない。だから、一緒の時間を過ごす事が出来れば十分。


「私、アイツをなんて解釈してんのかしら…」


携帯にぶら下げたストラップを眺めて笑った。去年の今日、帰りに寄ったゲームセンターのUFOキャッチャーで、冗談でねだって取ってもらったものだった。思いのほかゲームが下手だったトレインはしかし負けず嫌いでもあって、所持金を全部コインに換えて挑み、最後のコインでようやく手に入った、はじめてのプレゼント。自分の誕生日に他人に「おめでとう」と言ったはじめての経験でもあった。


「思い出し笑いする奴はエロいんだぞ」
「!」


自然と浮かんでた笑みにつけられた言いがかりにむっとして顔をあげた。そこにあったのは確かに予想通りの顔だったが、文句を言うより先にずいっと何かが視界いっぱいに押し付けられた。かわいらしいそれのお陰で全部が抜けて唖然と、間抜けな声で訊いてしまった。


「…………これ、何?」
「くまだろ」
「見ればわかるけど…どうしたの、急に」


怪訝に問えば不機嫌顔はそっぽを向いて「やるよ」と言ってきた。大きな、まっ白いティディベア。ふわふわほわほわとした毛を無意識に撫でて、首をひねる。
どうして、ぬいぐるみ?それも突然。
どこかで見たことがあるような、と記憶を辿ってみてもすぐに結び付かない。ぬいぐるみを抱えあげた処で、トレインが白い頭に手を置いた。


「お前、それこないだ見てたろ…まぁ、若干違うだろうけどな」
「え、」


言われてまじまじとつぶらな黒い瞳と目線を合わせ、は、と思い出す。
去年の8月1日以降、負けず嫌いのトレインがはまりだしたゲームセンター。一緒に行く機会は増えたものの、商品ゲットもののゲームの勝率はさっぱりだった。一緒になってはしゃいだシューティングゲームに疲れて一休みしていた時目に入ったのは大きなUFOキャッチャーだった。そしてその中で座り込んでいたのが、今手元にあるものにそっくりな白いティディベア。こんなに大きいぬいぐるみなんて、一体どういう人が取るんだろうと疑問に思って暫く眺めていた。その時は欲しい、だなんて思ってなかったけれど。
まさか彼が、あんな小さな事を覚えていたのかという驚き、それから感激。思わずリンスは笑いだした。トレインは居心地悪そうに彼女の隣に腰を下ろした。涙で滲んできたまなじりを指で拭い、リンスはトレインの顔を覗き込む。


「ね、急にどうしたのこれ?」
「や…別に」
「別にって事ないでしょ?最低コイン2枚で取れるのとわざわざ似たモノ買ってきたくせに」


核心をついた問いに、トレインは一度言葉を詰めてから諦めたように小さく嘆息した。そして小さく呟いた。


「今日。誕生日なんだろ」
「え、…どこで聞いたの、それ」
「つーか何で言わなかった訳?3年も付き合いあって知らないとか俺どんな間抜けだよ。まぁ…毎年祝って貰っといて訊いてねえ俺も俺だけど」


ぼそぼそと呟き濁しながらも已然むすっとしているトレインに、思わず口ごもる。そんなリンスを横目に見遣り、彼女の隣に腰を下ろす。


「大方、忘れられるとか思ったんだろ」
「ちがうの?」
「…アイツが覚えてんなら忘れる訳にはいかねえだろ」


その言葉に、さっきのジェノスを思い浮かんだ。
ジェノスは知り合った礼儀として女の子のデータを集めるとのたまったような人だ。自分も確かに、聞かれた記憶はある。
ああ、それで。
先ほど自分が外していた席で何かしらの嫌味でもいわれたのだろう。だからあんなに不機嫌だったのかとようやく合点した。
ジェノスに感謝かな、と胸の中で思い、静かに口元を綻ばせた。やわらかなティディベアの頭をよしよしと可愛がってやってから、リンスは隣の猫さんの黒髪もなでてやった。


「変なとこでやきもち妬くわよね、トレインって」
「…………放っとけ」


あら、珍しく、やけに素直。そっぽは向きつつも大人しく撫でられているなんて珍しい。嬉しくなったリンスはトレインの腕をとり彼の顔を覗き込んだ。


「ありがとうトレイン。すっごく、嬉しい」
「そりゃよかった」


ちらりとティディベアを見たトレインは少しだけほっとしたように笑みを浮かべた。
去年UFOキャッチャーで取った景品をプレゼントした時と同じ笑顔でぬいぐるみを抱きしめるリンスに「いい年して、やっすい女」と悪態を吐いてやるも彼女は「だって、トレインからのプレゼントだもの」と素直に頬を染めていて。ぬいぐるみの鼻の頭にひとつキスをするリンスが愛おしく思えて、それを取り上げる。抗議するように顔を上げたリンスの鼻先に、ベアに隠れて口付けてやると大きな目を更にまぁるくさせた。その隙にもう一つ、桜色の唇に落とす。みるみる赤くなって俯く様子に、さっきキャンパス内で見せた悪戯な笑みはどこに行った、と笑ってしまった。悔しげに睨み見上げてくる彼女の耳元に唇を寄せた。
──去年とその前は言えなかった言葉。今年からはきっと毎年の台詞になるだろう。


「ハッピーバースデー、リンスレット」




愛しい君の生まれた日
太陽の下で輝いた笑顔に、初めて夏に感謝した



(──ま、アイツにだけは死んでも礼は言わねえけどな)







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功労賞は間違いなくジェノです笑
誕生日プレゼントはアクセが定番でしょうが、トレインだし…と思って(何
青春バカップルさせたくて描いたお話←


ずっとリンクはってなくて申し訳ありませんでしたあああ(スライディング土下座



(ブラウザバック推奨)






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